サブスクリプションの管理会計のコツ!代表的なKPIは?

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ユーザーの利用期間に応じて継続課金をするサブスクリプションビジネスですが、どのように数字の管理をすべきか悩んでいる経理担当者・経営者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、サブスクリプションにおける計上の行い方、また業績評価を行う際に必要となる考え方について解説します。各数値を正しく評価し、サービスの改善・向上に繋げていきましょう。

サブスクリプションビジネスの仕組みをおさらい

最近多くの企業で盛んに導入されているサブスクリプションビジネスは、従来のビジネスのように商品を直接顧客に販売し、代金を受け取る仕組み(売り切り型)とは全く異なります。そのため、経営管理を行うにあたり、通常の損益計算書を用いることができず、正しい経営判断をすることができません。ここでは、正しく計上・評価を行うための基盤を固められるよう、そもそもサブスクリプションビジネスがどのような仕組みであるのかを解説します。

サブスクリプションビジネスの基本

サブスクリプションビジネスとは、提供する商品やサービスに対してではなく、ユーザーの利用期間に応じて課金を行うビジネスです。世代を問わず馴染みのあるものとしては、新聞購読が挙げられます。また、近年では動画や音楽の視聴、クラウドアプリケーションの利用、自動車の利用など様々な分野においてサブスクリプションが導入されています。

サブスクリプションの料金体系としては、企業によってやや異なるものの、基本的には月ごとの支払い、半年ごと・年間一括の支払いなどいくつかのプランを用意し、ユーザーが希望に応じて課金体系を選択できるように設定されていることが多いです。

「SaaS」って何?サブスクとは違うの?

サブスクリプションに関連した用語として「SaaS」という言葉があります。「SaaS」は「Software as a Service」の略で、日本語で言うと「サービスとしてのソフトウェア」となります。技術の発達により、インターネット上(クラウド)で利用できるソフトウェアが増えていますが、それがまさに「SaaS」にあたります。

このようなソフトウェアは事業者が一から構築したサーバーではなく、クラウドサーバーにて稼働しているため、従来のようにライセンスをユーザーに直接販売する形態をとりません。そのため、月額課金、或いは1年ごとの契約で提供する形で使用権が販売されています。これはまさにサブスクリプションの形態ですから、SaaSはサブスクリプションのモデルの一つ、ということになります。

サブスクの経理上の処理の特徴

サブスクリプションは月額課金や年間ごとの支払いを通じて、利用期間に応じた対価を求めるビジネスということですが、だからこそ売上を単純計算することができず、従来のやり方で計上を行うことはできません。そのため、サブスクリプションを導入したばかりの事業者は多くの苦労を抱える場合が多いです。

ここでは、サブスクリプションビジネスにおいて経理上の処理にはどのような特徴があるのか、またどんな難点を含んでいるかについて解説します。最初は敷居が高いと感じられるかもしれませんが、いくつかのパターンを頭に叩き込むだけでも格段と理解度が高まります。

顧客によってサービス内容と料金がバラバラ

サブスクリプションビジネスにおいてまず難点となるのが、顧客によってサービス内容や料金体系が違うということです。ほとんどの事業者の場合、一口に月額料金プランと言っても様々なオプションがあります。提供するサービスが複数あり、好きなものだけ組み合わせて利用できる場合、ユーザー一人ひとりの支払う料金は異なってくるため、自然と経理上の処理が複雑になってしまうのです。

また、同じサービスを組み合わせて利用する場合でも、販売促進を目的とした期間限定の割引サービスなどを設ける場合、月あたりの料金が申し込み時期によって異なってしまいます。一括払いでの割引となると、料金を月ごとで割った場合整数にならないもあり、整数にならして月ごとに計上するか、1年ごとに売上を計上するか悩ましいところです。

そして、そもそも月ごとの料金請求となると、毎月大量の請求書・領収書を発行する必要があり、それだけでもかなりの労力を要する作業となります。

オプションや重量課金によって同じ顧客でも料金が違う

サブスクリプションのサービスは、全ての顧客が申し込み時の内容のままで利用を続けるとは限りません。オプションが設けられている場合は途中から追加する場合がありますし、繁忙期など特定の期間にのみ必要な機能を利用するために重量課金を行う場合もあるため、顧客一人を見ても月々の支払額が一定にならないケースも数多くあるのです。

業務のシステム化などにより、各ユーザーの利用・申込状況を正確に記録するための仕組み作りができているのが望ましいですが、そうでない場合には経理担当者とフロントオフィスとのコミュニケーションを緊密に行い、毎月正しい内容での請求書を発行する必要があります。

コミュニケーション不足が原因で、誤った請求内容を顧客に送信してしまうと、クレームに発展する場合が多く、ひいては顧客離れへと繋がってしまう場合も少なくありません。サブスクリプションビジネスをスタートさせたばかりの段階では、このような問題を防ぐための業務フローをうまく設計するのはなかなか難しいかもしれませんが、売上アップのために抜かりない下準備をしておきましょう。

途中で契約内容を変更する顧客もいる

サブスクリプションではオプションや重量課金の他に、顧客による契約変更も度々生じます。選択の自由度が高いサービスを提供している場合、これまで利用していたオプションの利用をやめる代わりに別のオプションを追加したり、別の機能の利用に切り替えたりというケースが多くなります。これはユーザー側にとっては大きな魅力です。

しかし、経理担当者としてはこうした変更を正しく計上しなければならず、多くの注意を払う必要があります。顧客の契約内容を定期的にチェックし、変更内容を常に追わなければなりません。そのためますます、フロントオフィスと経理担当者とのコミュニケーションは重要なものになります。

毎月請求書を間違わずに発行する必要がある

これまで述べてきたように、オプションの追加や重量課金、割引料金の適用、契約内容の変更などにより、一人の顧客の契約状況や料金を管理することさえ煩雑で大変な作業になりますが、さらに毎月請求書を発行する作業が待ち構えています。面倒に感じられるかもしれませんが、しっかりと売上を立てるためには避けて通れません。

また、請求書は顧客にとっても大変重要な書類であり、内容を一切間違えず作成し発行する必要があります。万が一、実際請求すべき内容よりも高い料金を請求してしまった場合はクレームにつながり信用を失う可能性もありますし、逆に低い料金で請求した場合は得られる売上を回収できず、積もり積もれば経営悪化の原因にもなり兼ねません。業務のシステム化を通じて、顧客一人ひとりの請求書を正しく作成できるような仕組みを整えましょう。

サブスクビジネスで正確に計上・請求するポイント

サブスクリプションビジネスでは、これまで述べたように、売上を正確に計上し、正しい内容の請求書を発行することが何よりも重要なポイントです。こうした作業を正確に行うためには、要所を抑えておくのがコツとなります。ここでは、計上・請求をどのような点に注意して実行すればいいのか、確認しておくべきポイントについて解説します。

ルールを固めて明文化しておく

正確な計上・請求を行うためには、まずルールを固めておくことが何よりも重要です。月ごとの支払い・年間払い・期間限定の重量課金など様々なプランを用意されている場合でも、月ごとに計上するのか、年ごとに計上するのか、統一しておくことが最も大切と言えるでしょう。統一が図れれば、経理の担当者が変わった場合に、新しい担当者もすぐに会計の方法をマスターし、円滑に業務を行うことができます。

例えば、月ごとに計上する場合、年間一括払いで契約している顧客からの売上を計上する方法がやや悩ましいところです。なぜなら、年間払いの場合の料金が単純計算で月額料金の12倍となっていれば良いですが、一括払いならではの割引料金・特別料金を設けている場合も多く、請求料金を12で割った時に綺麗な整数になるとは限りません。そうした場合、一定のルールで1ヶ月目の請求額を多めにもしくは少なめにすることで帳尻を合わせ、計算しやすい10の倍数・100の倍数の金額で計上すると良いでしょう。

人力の工程を極力減らしてヒューマンエラーを防止する

口や紙を用いたコミュニケーション、計上を行う場合、どれだけチェックを徹底したとしても必ずヒューマンエラーは発生してしまいます。そこで、多くの企業はミスを極力減らすべく、AIシステムなどを用いた業務の自動化を行っています。AIは働き方改革においてもメリットが大きいため、導入は今後ますます進むことでしょう。

AIを利用すれば、顧客とそのプラン・請求日の管理、そして月々の売上から請求書発行まで、全て人の手をあまり介することなく行うことができます。これら全てを管理するAIを作成するにあたっては初期コストが大きくかかってしまいますが、今後の売り上げが見込める場合は安い投資となることでしょう。また、あまりお金をかけられない場合でも、料金計算など部分的にもAIによるシステム化を行うことが今後の業務でミスを減らすことにつながります。

「管理会計」とは?

サブスクリプションビジネスにおいて、現時点での経営が好調かどうかを可視化するための会計として、「管理会計」と呼ばれるものがあります。ここでは管理会計がどのようなものであるのか、また一般のビジネスにおいて、管理会計に並んで必ず用いられている「財務会計」との違いについても解説します。KPIとともに、しっかり頭に入れておきましょう。

管理会計とは会社内部のための会計

管理会計とは、会社内部で管理し、活用するための会計を指す言葉です。この管理会計によって、経営分析や今後の経営方針策定を行うことができ、ひいてはサービスの品質向上について議論を深めることができます。また、売上向上を目指すための施策を打ち出すだけではなく、不要な経費を削減する際にも役立てることが可能です。

管理会計は外部に提出するものではないため、会社の方針に合わせて作成すれば問題ありません。一年単位で数値の見直しを行いたい場合は年単位で、頻繁に経営の見直しを行いたい場合には週単位や月単位で作成すると良いでしょう。なお、会計を作成するにあたり用意する情報も会社によって異なりますが、どのような数値が必要かあらかじめ決められているわけではありませんので、自社に最も適していると考えられるやり方で行うことが重要です。

管理会計を導入するメリット

サブスクリプションビジネスにおいて有用な会計である「管理会計」について見てきましたが、実際に導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのポイントに分け、それぞれ掘り下げて解説します。これらを把握した上で、管理会計をKPIと併せて活用するよう心掛け、安定した経営ができることを目指しましょう。

部門ごとの現状と今後の目標が明確になる

管理会計は未来の経営に役立てるためのデータを用いた会計となりますので、自然と部門ごとの現状を把握することができます。また、これまでに定めてきた経営目標と照らし合わせて分析することで、営業部門の活動内容をより具体的に定めたり、各部門でいかにして不要な経費を削減するかの方針を決めたりすることが可能になるのです。

このように管理会計を通じて事業戦略をはっきりと定められれば、最終的な経営目標も自然と見えてきますし、さらにその目標を具体的な数値で設定できれば、KPIの目標値を設定することもできます。数値を意識した経営を行うようにすれば、サービスをいかに改善するかに気を配れる他、各部門で具体的な目的意識を持って日々の業務を行うことができ、モチベーションアップにもつながり好循環を生み出すでしょう。

早めに必要な施策を打てる

管理会計を導入することで、部署ごとの経費やサービスごとの売上など、経営者が把握しておくべき数字を常に念頭に置くことができるようになります。経営者がこれらの数字を頭に入れていれば、即座に経営戦略を判断し、その場その場に応じた適切な施策を適切なタイミングで打ち出すことができます。このことにより、結果的に業務のスピードアップを図ることが可能になるわけです。

また、各部門が経営者から適切な指示を受けるようになれば、各従業員が次第と経営者目線を持てるようになります。経営者は自身の仕事で大変忙しい場合も多く、いつも指示出しができるとは限りません。しかし、それぞれの部門が経営者不在の状況でも、数値を達成するために何をすべきか話し合って決めていくことが可能です。経営者の指示と日々の業務改善を通じて、より良いサイクルを回せるようになれば、安定した経営を目指せます。

予算の削減と増額の判断がスピーディーにできる

管理会計でサービスの原価を管理すれば、サービスの開発にどれくらいのお金がかかったか、またマーケティングにどれだけ費やしたかなど、「何にいくらかかったのか」を一目で確認できるようになります。さらに、月ごと・年ごとに管理することで、期間ごとにどれだけ予算が増減したかを調べることもでき、今後の予算方針を決める際に大いに役立てることが可能です。

このようにして、各部門において本当に適切な予算の使い方ができているか洗い出せるのはもちろんのこと、たとえ必要な費用であったとしても、本当にそれだけの金額をかける価値があったのかを判断することもできます。必要だからといっていたずらに高額の経費を使う習慣が根付いてしまうと、知らず知らずのうちに経営を悪化させてしまうケースも少なくありません。

仮にキャッシュに余裕がある場合でも、予算を減らす余地があるところでは思い切ってコストカットを実行する決断を下すべき時はあります。その際に、具体的な数値を示している管理会計が助けとなります。以上のように、管理会計は経営の様々な局面において活用することができるのです。

サブスクビジネスにおける代表的なKPI

どんなビジネスにおいても、KPI(重要業績評価指標)を設定することは大変重要とされています。従来の売り切り型のビジネスでは売上額の目標などが設定されますが、サブスクリプションビジネスの場合、そうそう単純にはいきません。顧客に契約してもらえることがゴールではなく、契約してもらってからいかにサービスの利用を持続してもらうか、また高額のオプションを追加してもらえるかが重要なポイントとなるのです。

したがって、経営状況を可視化するための損益計算書も、従来とは異なるものを用いなければなりません。売上額やサービス提供においてかかった経費という指標ではなく、ARR(年間経常収益)、Churn Rate(解約率)、CAC(顧客獲得費用)といった、別のKPIを用いる必要があるのです。ここでは、新しい損益計算書を作成するために必要なKPIについて一つ一つ解説します。経営が上手くいっているのか正しく評価するために、それぞれの要素について理解を深めておきましょう。

解約率(Churn Rate)

まず、どれだけの顧客を維持できているかを表す指標として、解約率(Churn Rate)があります。各期間において、前の期間に契約していた顧客のうち何人が解約したかを、パーセンテージにより表した数字となります。これはサブスクリプションサービスのみならず、それぞれの顧客に何度も契約してもらう形態のサービスを提供している企業においては大変重要な指標となります。

解約率は提供しているサービスの価値を測る役割を果たしますので、もしその数値が高い場合は、万が一毎月の売上額が高かったとしても楽観視してはいられません。顧客の多くがそのサービスにあまり価値を感じなかった可能性が高いので、内容を改善して今後解約率を下げる方針で進めるのか、それともあまり気にせずひたすら新規顧客を獲得する方向で進めていくのか、社内で議論を深めることが重要になります。

ARPU(ユーザー平均単価)

ARPUは「Average Revenue Per User」の略称で、1ユーザーあたりの平均単価を表す指標です。日ごと(月ごと)の総売上額を顧客数で割ることで求められ、日ごとに算出する場合は「日次ARPU」、月ごとに算出する場合は「月次ARPU」と呼ばれます。ARPUはもともと、月額料金での支払いが基本となっている通信キャリア業界で使用されてきたKPIですが、サブスクリプションビジネスも同じ形態のビジネスであることから、経営状況の評価に必要な要素として導入されています。

ARPUが高い場合、顧客一人ひとりが高額なプランを申し込んでいたり、たくさんのオプションを追加購入していたりするということが分かります。逆に、低い場合には低料金のプランを利用している顧客が多いということになります。提供しているサービスの特性に応じて、ARPUをとにかく上げるのか、それともARPUは低くても構わないので顧客数を増やせれば良しとするのか考えることが重要です。

MRR(月次経常収益)

MRRは「Monthly Recurring Revenue」の略称で、日本語では「月次経常収益」と呼ばれるものです。これはそれぞれの月における収益を指しています。ただし、毎月定額で支払っている分の売上のみを計上し、入会費などの初期費用や、オプションなどの追加購入費用は除きます。これにより、前月と比べてどれだけビジネスが成長したか、また顧客数の増減がどのような形で収益に反映されたかが可視化されるのです。

MRRが増えた場合、原因は新規の顧客をたくさん獲得したか、既存の顧客がより高額のプランに切り替えたかのどちらか、もしくはその両方と考えられます。対して、MRRが減った場合は、単純に顧客数が減ったか、既存の顧客がより低額のプランに切り替えたか、という話になります。サービスの特性も考慮しながら、顧客をとにかく増やすのか、それとももっと高額のプランを申し込んでもらえるよう内容を充実させるのかなど、今後の方針を決める際に大いに役立てることが可能です。

ARR(年間経常収益)

ARRは「Annual Recurring Revenue」の略称で、日本語では「年間経常収益」と呼ばれるものです。上で紹介したMRRを単純に12倍したものとなります。この計算方法から想像できるように、ARRに関しても、初期費用や追加購入費用は除外して算出されます。年間ごとに売上額を計上している企業の場合、MRRよりもARRを用いた方が経営状況の分析を行いやすいことでしょう。

CAC(顧客獲得費用)

CACは「Customer Acquisition Cost」の略称で、顧客獲得費用を表す指標です。決まった期間において、新規顧客の獲得に要した費用を、実際に獲得できた顧客数で割ることで算出されます。これにより、どのようなビジネスであっても経費として欠かせないマーケティング費用や販売経費が、一人の顧客を獲得するためにどれだけ費やしたのかが可視化されます。

どのような企業であっても経費削減は重要な課題の一つですから、CACがあまりに大きいのは問題となります。なぜなら、顧客一人ひとりにかけるマーケティング費用が高額ということになるからです。現在採用しているマーケティング戦略は有効なのか、予算を減らした方がいいのかなど、長期にわたって安定するビジネスプランを設計するために、CACを可能な限り活用することをお勧めします。

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監修
【監修】藤田 豪人 株式会社ROBOT PAYMENT 執行役員

2019年当社に入社、執行役員に就任。
当社に入社以前は株式会社カオナビにてコーポレート本部長、複数の情報IT企業にてCMOなどを歴任。
現在は、当社のフィナンシャルクラウド事業及びマーケティング全般を統括。