入金遅延を避けるには?対応フロー・注意点・予防策を解説
商取引において、売掛金が期日までに入金されないといった場面は、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。取引先の些細な事務ミスであればともかく、入金遅延は取引先の経営状態の危機を示すサインにもなりえます。
この記事では、入金遅延の発生理由から、発生時の対応フローとその注意点、具体的な防止策について解説します。
入金遅延はなぜ発生するのか
本来ならば避けたい入金遅延ですが、そもそもなぜ入金遅延は発生するのでしょうか。取引先からの売掛金入金が遅延してしまう場合、主に下記の3点が原因として考えられます。深刻度の低いものから順に説明しましょう。
事務手続き上のミス
書類の不備や振込の確認忘れなど、担当者の事務手続き上のミスにより入金が遅延するケースがあります。内容にもよりますが、早期発見して訂正することで、売掛金もすぐに回収できることが多いため、深刻度は低いといえるでしょう。
しかし反対に、取引先ではなく、自社の事務手続きのミスによって入金が遅延しているケースもあります。その場合は、真摯に対応したうえで再発防止に努める必要があるため、さまざまな可能性を考え確認を取りましょう。
期日などの認識の相違
支払期日・支払金額について、自社と取引先との間で認識が食い違っていた場合にも、入金遅延は起こりえます。
単なる勘違いだった場合はそこまで大きな問題にならないかもしれませんが、従前の契約内容、取引価格・支払い期日と違うなど、契約内容の認識の相違で支払いに応じてくれない場合は、やや深刻です。
言った・言わないの話で揉めることがないよう、締結した契約書の控えはもちろん、価格交渉の経緯なども可能な限り記録を残し、保管しておきましょう。
取引先の資金不足
取引先が資金不足により、支払いたくても支払えない状況の場合は、最も注意しなければなりません。資金繰りが一時的に悪化しているだけならまだしも、改善の余地なくそのまま倒産となる可能性もあります。そうなれば、売掛金の全額回収はおろか、一部の回収さえ厳しくなるでしょう。
ビジネスにおいて取引先との信頼関係を築くことはもちろん大切ですが、入金遅延が起こった際の最悪のケースに備え、対応策・予防策を練っておくこともとても重要なのです。
入金遅延への対応フロー
では、実際に取引先からの入金遅延が生じた場合、どう対応するべきなのでしょうか。順を追って解説します。
まずは取引状況・取引先を確認
入金遅延が判明した場合、まずは原因を特定することが先決です。
当該取引先と交わした取引関係書類を見直し、自社の書類上の不備や事務手続きのミスがないかどうかを確認します。もし自社のミスが原因であれば、謝罪・対処を行うとともに、再発防止策を講じましょう。
なお、自社のミスが原因の場合は、売掛金が回収できる見込みがまだあるため、比較的穏当なパターンといえます。
遅延の理由を確認する
原因が自社側にない場合、取引先に遅延の理由を確認しましょう。
また、売掛金の一部にしろ、全部にしろ、支払いの意思があるかどうかも併せて確認しておく必要があります。この時点で、遅延理由について納得のできる回答が得られない場合、万が一に備え、先述した最悪のケースを想定して動く必要があるでしょう。
支払期限を新たに設定する
取引先がすぐに売掛金を支払える状況にないとき、期限の延長を求められる可能性があります。しかし、すぐにこれを承諾してしまうと、ただのその場しのぎに終わってしまい、実際には回収できずに次の期限も過ぎてしまう可能性があるため、おすすめできません。この点については、後にほかの項目でも詳しく解説します。
なお、期限の延長に応じるのは「担保提供を受けられる」「確実な入金の予定がある」など、期日の入金に信憑性が認められ、自社の未回収リスクが回避できそうな場合に限るのが賢明です。
延滞利息・遅延損害金を請求する
期日を延長したところで、滞納された売掛金が自社の業績や資金繰りに悪影響を与えていることに何ら変わりはありません。そこで、延滞利息や遅延損害金を請求することで、仕入れ不足による機会損失や、赤字補てんのために受ける融資の利息などをある程度補うことはできます。将来的な再発防止の抑止力としての効果も期待できるでしょう。
さらに、契約条項に遅延損害金を定めている場合は、その記載分(債権額により15~20%の上限あり)を、特に定めていない場合は民事法定利率(年利3%)を上限として、取引先へ合法的に請求することができます。
それでも滞る場合は訴訟を検討
再設定した期日にも音沙汰がない、確認連絡の時点で連絡が取れない、交渉に応じてくれないなどといった場合には、訴訟が選択肢に入ります。ただし、取引金額が少額であったり、遅延損害金(遅延利息)の発生から日が浅かったりする場合は、拙速に動く必要はありません。弁護士費用など訴訟に要する費用のほうが高額になり、かえって損をする恐れがあるからです。
とはいえ、どうするか迷っている間に倒産されては元も子もありません。そういったケースでは、少額訴訟や民事調停といった簡易的な手続きをとることで、費用を抑えつつ取引先に入金を促していくのがよいでしょう。
入金遅延対応時の注意点
以上、入金遅延への対応フローについて解説しましたが、この流れにおいて特に注意すべき点を3つ紹介します。
遅延から催促まで間を空けない
遅延理由の確認から催促までは、可能な限り間を空けずに行いましょう。原因が単に人為的・事務的ミスや入金忘れなどの場合は、大抵すぐに解決できるため、早く伝えるほうが自ずと入金も早くなります。
また、資金不足などの深刻な事態であった場合でも、自社が「催促が早く、堅実な対応をする取引先」だと認識されれば、ほかの取引先よりも優先して入金してもらえる可能性が高くなります。
お詫びを鵜呑みにしない
長い付き合いのある取引先であるほど、多少のことには目をつぶる、というような信頼関係が醸成されている場合も多いでしょう。しかしながら、その信頼関係に半ば甘えるような形で、資金繰りの困窮を誤魔化し、隠してしまうケースもあります。
遅延の真の理由を伝えず、単に手続き上のミスとしたり、お詫びの書面やメールなどでその場しのぎをしたりといった具合です。手遅れになる前に対処するには、そういったお詫びの表面的な部分だけでなく、これまでの取引内容から財務状況などの事情を勘案して、対応策を検討することが重要となります。
延期要請への対応は慎重に
前項と関連して、長い取引関係に免じて安易に期限延長に応じてしまうのも、リスク管理の観点から見ればやはり危険といわざるを得ません。特筆すべき理由として、自社が延期を承諾することで取引先が得る「期限の利益」というものがあります。
期限の利益とは「定められた支払期日を迎えるまでは、債務者は弁済(支払い)しなくてもよい」という、債務者の利益のことです。具体的には、例え取引先が倒産秒読みの状況であっても、一度延長した期日を前倒して催促できなくなる、つまり、取引先は延長した期限を迎えるまで前倒しで弁済する義務がなくなるということです。
即座に期限延長に応じてしまうことは、売掛金を請求できないまま、取引先に倒産の準備を進める猶予を与えてしまうという、リスクを秘めた行為になります。そのため、延期要請への対応は慎重に判断する必要があるのです。
入金遅延の防止策
それでは、入金遅延を早期に察知し、未払いを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、効果的な防止策を4つ紹介します。
契約内容に無理がないか見直す
取引先に過度の負担を強いるような契約条件になっている場合は、内容を見直すことも一考しましょう。負担が軽減されて取引先の業績が回復してくれば、遅延が発生したとしても回収の可能性が高まるだけでなく、今後の入金遅延リスクの低減にもつながります。
ただし、契約内容を見直す際は、単に緩和的に条件を変更するのではなく、自社に損失を生じさせないためにも以下のような条項を盛り込みましょう。
● 期限の利益喪失条項
契約書に定めた事由が発生した場合に、債務者は期限の利益を喪失し、主張できなくなるという条項です。この条項を盛り込むことにより、取引先からの入金遅延が発生した際、自社は支払期限に関係なく未回収金の入金を求めることができるようになります。
2期以上連続で赤字決算であったり、債務超過に陥ったりしているような取引先は倒産の恐れが大きくなるため、そういった取引先との契約では特に重視すべき予防策といえるでしょう。
● 損害賠償条項
先に解説した通り、遅延損害金は契約書に記載のない場合でも法定利率に基づいて請求できます。しかし、遅延損害金の請求に関する条項をあえて明文化して示しておくことで、取引先へ間接的にプレッシャーを与える効果が期待できます。
また、いざというときの訴訟に備え、民法に則った契約内容かつ双方が確認済みである、という証拠を残しておく意味でも有用です。
● 中途解約条項
長年、継続的な契約下で取引している企業であっても、信頼関係が大きく崩れた場合は取引解約も考慮に入れるべきです。しかし、契約期間中は民法の拘束下に置かれるため、取引先に債務不履行などの法的な責任がない限り、基本的に両者の同意なく解約はできません。
そこで、期限の利益喪失条項と同様に事由を定め、中途解約条項を盛り込んでおくことで、期間中でも有事の際には自社から取引を解消することができるようになり、安全性を高めることができます。
売掛保証サービスを利用する
売掛保証とは、取引先の資金繰りの悪化や倒産など、何らかの理由で支払いが遅延したり回収見込みがなくなったりした場合に、取引先に代わって売掛金保証をしてくれるサービスのことです。生命保険のようにあらかじめ加入しておくことで、毎月の保証料と引き換えに、取引先が倒産した際の未回収リスクを大幅に減らすことができます。
なお、売掛保証サービスを利用する際には、保証会社の審査が必要となります。破綻の懸念があるほど業績が悪化している取引先だと、利用できない場合もあるので注意しましょう。
与信管理を徹底する
与信管理とは、新規あるいは既存の取引先について、売掛金の支払い能力を算定・分析することです。分析の方法には主に「定量分析」「定性分析」「商流分析」の3つがあります。
「定量分析」では、企業の公表している決算書や財務諸表を用い、企業の現況を数値化して分析します。損益分岐点の分析をはじめ、全容の把握には専門的な知識が必要となります。
「定性分析」は、主に定量分析を補完する方法として用いられ、当該企業の仕入れ先、納入先の変化や離職率の上がり・下がり、そのほか内部情報など、数値以外の部分から企業を分析します。
「商流分析」とは、支払いサイト・支払い方法・納品手段などが業界の商習慣に合っているかどうかなど、その会社の取引や経営方針全体に問題がないかを分析するものです。
いずれの分析方法にせよ、ある程度の専門知識は要求されるうえに、取引先が社外に公表している情報には限りがあるため、自社で行うには専任の人材と相応の時間が必要となります。
管理システムを導入する
自社で取引先の与信管理を行い、人材面・コスト面からリスクマネジメントを徹底するのが難しい場合には、自動化できる管理システムを導入するのも有効な手段です。
取引先の支払い能力に関する「限度額設定」「売上債権残高」の管理を自動で行ってくれるだけでなく、システムによっては社内で完結させるのが難しい「信用調査」を紐づけてくれるものもあり、与信管理にかかる労力・コストを大幅に削減することも可能となります。
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