キャッシュアウトとは?会社法においてのキャッシュアウトについても解説
「キャッシュアウト」とは、ケースによって意味が大きく異なるワードです。そこでこの記事では金融用語として企業の立場として用いる場合、そして会社法で定められている、組織再編税制の一環として実行可能な手続きの方法について詳しく解説します。
キャッシュアウトとは
キャッシュアウトの概念を正しく理解していくために、まずは「キャッシュアウト」とは何なのか具体的に解説します。
概要
キャッシュアウトとは、何らかの企業活動を発端として、一定期間において企業の現金が外部に流出することを指します。
近年広まりつつある金融サービスの一環として、「キャッシュアウトサービス」というものがあります。これは、商品を購入する消費者がデビットカードやQRコードなどを利用して店舗で現金を引き出すことができる仕組みです。
このように、もともとの金融用語としての意味合いとはやや内容が異なりますが、本来の意味としては企業が商品の仕入れや設備投資、借入金の返済などのアクションによって資産が流出すること、もしくはその流出した金額のことを指します。
キャッシュフローと何が違う?
キャッシュフローとは、企業活動や事業において、その流れのうえでの資金の流れのことを指します。先ほども触れたように、このとき資金が流出する場合はキャッシュアウト、反対に資金が流入した場合はキャッシュインと呼んで区別します。
財務諸表のひとつとして「キャッシュフロー計算書」があり、「どこに資金を使い、どのように資金を増やしたのか」を把握する際に役立つものです。キャッシュフロー計算書には3つの区分があり、営業活動における資金の支出を指す「営業キャッシュフロー」、投資活動における資金の支出である「投資キャッシュフロー」、資金の調達と返済の流れを記録する「財務キャッシュフロー」があります。
会社法におけるキャッシュアウトの意味
会社法とは、会社の設立、組織、運営および管理について定めた日本の法律です。この法律における「キャッシュアウト」の意味は、これまで解説した内容とは異なるものになります。
株式の売り渡す請求のこと
会社法におけるキャッシュアウトとは、現金を対価として、少数株主を会社から退出させることを指します。スクイーズアウトと呼ばれることもあります。
2014年に行われた会社法の改正において、「90%以上の株式を有する株主は、他の株主全員に対し、その株式全部を、自己に直接売り渡すよう請求できる」という趣旨が追加されています。これは、従来の方法では時間と費用がかかるうえに、最終的に少数株主が対象会社から退出する時期が遅いため、公開買付の強圧性が強まるという問題の指摘を反映したものです。
改正法では、株式等売渡請求制度の導入 がなされ、従属会社の株主総会決議を要さず、取締役会の承認決議により従属会社を完全子会社化できるようになりました。
少数株主が持つ権利とは
会社の経営方針は、原則として株主総会に出席した株主の議決権で半数を超えた際に決定されることから、少数株主の場合、会社の経営方針の決定に参加できない可能性があります。そのため、所有している株式数に応じて決定権が左右されるのではなく、例え保有株式が少数であっても権利を確保できるように、保有比率が低い株主においても一定の権利が認められているのです。
それぞれの権利を行使できる条件は、保有している株式数や保有の継続年数によって異なります。このうち、1株のみ有する株主であっても行使可能な権利を単独株主権と言います。
たとえば、「株主総会・種類株主総会の招集請求および招集」の権利の場合、総株主の議決権のうち3%以上の議決権および6ヶ月間の継続保有が条件です。
キャッシュアウトによって何ができる?
他社を子会社化したいと考えたとき、株主全員から同意を得ることはそう簡単ではありません。他社の持ち株比率を100%にし、意志決定を迅速化させるためには、分散した株式を集約させたり、株主を整理したりする必要性があります。
そこで合併買収を行った後の会社絵運営を円滑にするために、先ほども触れた少数株主が持つ権利を行使されないように、経営への影響力を排除する目的のためにキャッシュアウトが利用される、という背景があります。
会社法におけるキャッシュアウトの手法
キャッシュアウトにはいくつかの方法があり、以下では代表的な4つの方法を解説します。
全部取得条項付種類株式
「全部取得条項付種類株式」は種類株式のうちの一つで、株主総会の決議により、すべての株式を会社が取得できる株式のことを指します。この株式を発行するためには種類株式会社に変更することが求められ、変更から株式取得までの工程において、株主総会の特別決議が必要です。
この場合、変更されるのは「すべての株式」であるため、本来は少数株主のみに限定して買い上げることはできません。したがって、まずは会社の発行している株式をすべて全部取得条項付種類株式に変更します。このとき、すべての株主に対して平等な権利が与えられる普通株式のみを発行している会社の場合、株主総会の特別決議の権利によって変更が可能になります。
次は、「会社が全株主から全部取得条項付種類株式を強制的に買い上げる」という内容を決議する段階です。株式の対価となるのは現金ではなく、新たに発行する普通株式を利用します。このとき、それぞれの株式の比率を調整し、少数株主には株式が残らないようにすることが重要です。
株式併合
株式併合は、複数の株式を一つにまとめる方法です。
例えば会社が発行しているすべての株式が100株だったとして、3人の株主が持つ株式が90株、7株、3株という配分と仮定します。このとき、10株を1株に併合する、という決議が下された場合、株式は9株、0.7株、0.3株ずつという配分になります。
少数株主の持ち株が1株未満の端数となると、株式としての効力が消失するため、株主としての権利が行使できません。上記の場合、株式併合後に0.7株と0.3株になってしまった株主が該当します。ちなみに端株は合算され、1株になった時点で時価として売却されます。
株式併合は、会社法に定められている通り「2/3以上の議決権があれば株主総会の特別決議を実行できる」ため、条件さえ整備できれば全部取得条項付種類株式のケースよりも手間をかけずにキャッシュアウトを進められるのが特徴です。
株式等売渡請求
総株主のうち議決権を9割以上所有している特別支配株主が、会社を通じて自分以外の株主に株式売却を請求する手法です。対象会社において、その承諾や売渡株主に対する通知、公告などの手続きを行うと、少数株主はこれに同意しなければなりません。そのため、少数株主が有する株式などを強制的にすべて取得することができる制度です。
先ほども触れたように、この方法は2014年の会社法改正によって新たに導入された制度です。株主総会決議が不要であるなど、従来のキャッシュアウトの方法と比較して工程が簡略化されているため、改正後では一般的なキャッシュアウトの手法として定着しています。
株式交換の応用
子会社の株式と親会社の株式を交換するという手法で、会社が他の会社に出資して株主になっている場合にのみ利用できるものです。一般的には、子会社の少数株主をキャッシュアウトしたい場合などに有効です。
まず、子会社の株式を親会社の株式に交換します。これによって、少数株主が持つ株式は子会社ではなく親会社の株式となります。ここで、親会社の株式併合を行い株式の保有割合を調整し、少数株主の株式を1株未満にすることでキャッシュアウトは達成です。
また、子会社の株式を親会社の株式に交換するのではなく、直接現金を付与する現金対価という手法もあります。どちらの方法も株主総会の特別決議で決定が下されます。
キャッシュアウトの手法が使われた事例
ここからは、実際にキャッシュアウトが行われた企業の事例について詳しく見ていきましょう。
パイオニア
音響機器事業の大手であるパイオニアは、2014年にカーナビゲーションシステムやカーオーディオなどの車載機器をメインとした電機メーカーとして自主再建を図ります。ところが、2010年代ごろから台頭してきたディスプレイオーディオの普及などにより、車載機器の売上が低迷下していました。
そこで、2018年に香港の企業再生ファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)の傘下に入り、株式併合によるキャッシュアウトで2019年に完全子会社化し、上場廃止となりました。
雪国まいたけ
マイタケ、エリンギ、ブナシメジなどのキノコ栽培や加工食品、健康食品の製造および販売を行う雪国まいたけは、2015年にアメリカのプライベート・エクイティ・ファンドであるベインキャピタルによる株式の公開買い付けを発表しました。
買い付けは株式会社BCJ-22を通じて行われ、その年の6月には上場廃止が決定されます。最終的には、株式会社BCJ-22の完全子会社となりました。
日本生命
日本の大手生命保険会社である日本生命は、2015年に三井生命保険株式会社との経営統合および、三井生命保険の買収で最終合意したと発表しました。両社の事業運営の自主性・ブランドを尊重するとともに、それぞれの沿革、アイデンティティに配慮するということで、両社の合併は行わないものとしています。
日本生命は株式公開買い付けを12月に実施し、優先株式の転換や株式等売渡請求の方法によるキャッシュアウトによって三井生命保険を完全子会社化しました。
優先株式とは、普通株式よりも余剰金の配当などを優先的に受けられる株式で、転換することにより普通株となるものを指します。
光製作所
家庭用家具や店舗向けの業務用家具などの企画、制作、販売をはじめ、不動産の賃貸経営なども手がけている光製作所は、景気低迷や企業間競争の激化などの理由から先行きが不透明な業績が続いていました。
そこで、2019年に親会社である光商、久光、久伸、松栄の4社によって株式併合によるキャッシュアウトを行い、上場廃止を発表します。株式併合にあたっては、家具商品部門事業における新規分野や営業拠点の増設などにおける投資、およびブランディングや不動産部門への注力といった立て直しを図る目的がありました。
エナリス
エネルギーエージェントサービスや電力卸取引などを行っている株式会社エナリスは、2018年にKDDI株式会社と電源開発株式会社が共同で、エナリス株式の株式公開買付けを行うことを発表しました。
KDDIは2016年に全国規模で「auでんき」のサービスを提供するなど、電力自由化による電気事業の拡大に注力していました。そこで、同年エナリスと業務提携契約を締結し関係会社となった後、キャッシュアウトによってエナリスを傘下に収め、電力事業におけるシェア拡大を狙っています。
キャッシュアウトを行う際の注意点
では、実際にキャッシュアウトを効率的に実施するためには、どのような点を注意すれば良いのでしょうか。以下に3つのポイントに分けて解説します。
スケジュール管理
キャッシュアウトを実施するには、ある程度の余裕を持って実行することをおすすめします。
例えば、株主総会の特別決議を経る必要がある場合、基準日設定といってある特定の時点(基準日のこと)にその企業の株主名簿に株主として記録される必要があります。基準日を設定するためには、最低でも14日以上前に「公告」という告知の手続きが必要です。
その後は株主総会を開催する準備にあたり、議題の確定や株主の招集通知を行います。さらに招集通知を発送してから実際に株主総会を開催するには14日以上の期間を開ける必要があるため、ここまでのスケジュールだけでも1ヶ月~2ヶ月ほどはかかることを念頭におきましょう。
資金の準備
全部取得条項付種類株式、株式併合、株式等売渡請求、株式交換の応用といういずれの方法においても、前提として一定数以上の株式を保有していないと、そもそもキャッシュアウトを実行することができません。
具体的には、事前に議決権の3分の2以上を取得する必要があり、その後に残ったすべての株式を取得する際にも多くのコストがかかることは覚悟しなければなりません。
キャッシュアウトの特性上、個別に株価を調整して買取するということができないため、実施する企業の株価にもよりますが、基本的には多額の資金を準備することが最低条件として求められます。
訴えられるリスク
会社法では、少数株主による意見がはく奪されないようにさまざまな権利を実行することができます。例えば、反対株主の株式買取請求や差止請求、株主総会決議取り消しの訴えといった権利が与えられています。
そもそも、キャッシュアウトという方法自体が強制的に株主を買い上げるという手法をとらなければならない行為です。少数株主からの訴訟リスクを軽減できるように、キャッシュアウトを実行する前からどのような流れで行うか対策を練る必要があるでしょう。
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