インボイス制度は海外取引にも適用される?影響の有無や取引シーン別の対応も解説
インボイス制度の正式な開始が近づき、対応を急いでいる事業者は少なくありません。取引先が免税事業者か、課税事業者かで対応が分かれる国内取引はもちろんのこと、海外に取引先のある事業者の場合はさらに対応が複雑化する場合があります。
この記事では、海外取引にインボイス制度が与える影響や、影響を受ける取引・受けない取引の違いを説明します。また、海外取引シーン別のインボイス対応や、消費税の取り扱いについても併せて解説しますので、参考にしてください。
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海外のインボイス事情
シンガポール・オーストラリア・EUなどでは、電子インボイスの国際規格である「Peppol」を採用しており、日本のインボイスもこのPeppolに準拠した仕様となることが発表されています。電子インボイスの導入が進んでいる国には他にメキシコ・台湾・ベトナムなどがありますが、これらの国々ではPeppol規格を採用していません。
電子インボイスを採用することで、将来的には請求書の完全なデジタル化の実現が期待されており、韓国では実際に全面的に電子インボイスが導入されています。また、国際規格との統一を図ることで、海外取引についても国内取引と変わりなくインボイス制度を適用できるようになるでしょう。
海外取引におけるインボイス制度
日本でも開始秒読みとなり、国際規格にも対応の目処が立っているインボイス制度下で、海外の事業者と取引をする際はどのような点に気を付けるべきなのでしょうか。
外国法人が取引先の場合は注意が必要
原則として、インボイス制度の対象となるのは日本政府に対して納税義務のある事業者です。外国法人が納税義務を負っているかどうかは、PE(Permanent Establishmentの略称、事業拠点のこと)を国内に持っているかで決まります。PEを国内に持たない事業者は、法人税などの納税義務を負わない「PEなければ課税なし」という国際的な課税ルールが存在するからです。
ただし、インボイス制度の対象となる消費税に関しては、納税義務が取引ごとに個別に発生する税金のため、対応が異なります。海外取引にかかる消費税については、国内にPEを持たない外国法人でも課税されるケースがあるでしょう。
例えば、国外企業が国内の企業に委託して仕入れを代行してもらい、仕入れた商品をさらに別の国内企業へ販売しているといったケースです。詳しくは後述しますが、この場合は売上高や資本金によっては消費税が課税されることがあります。
取引先の外国法人への確認事項
取引先の外国法人が消費税の納税義務を負っているかどうかを、PEの有無によらず、書類上で簡易に判断するためには、以下の2点がポイントになります。
・外国法人の2期前の決算において、課税売上高が1,000万円を超えているか
・設立から2期以上経過していない新しい法人の場合は、事業初日時点で資本金が1,000万円以上あるか
上記のどちらかに該当する場合は、外国法人であっても日本への消費税納税義務を負う可能性があります。会社登記を確認したり、課税事業者かどうか、適格請求書発行事業者登録を行っているかどうかを直接確認したりするのが望ましいでしょう。
また、資本金が1,000万円以上の場合は、取引金額に関係なく納税義務が発生している場合もあるため確認が必要です。
海外取引にインボイス制度が与える影響は?
インボイス制度が影響を与える海外取引と、そうでない海外取引を判別するためのポイントについて解説します。
影響を受けるかどうかは取引内容次第
消費税の納税義務については、課税原則である国内PEの有無よりも、国外事業者の資本金・取引金額、取引内容が重要な判断基準です。そのため、課税義務を負う可能性のある売上高・資本金を有する事業者に対しては、個別の取引内容ごとに影響の有無を確認しなければなりません。
インボイスの影響を受ける海外取引
インボイスの影響を受ける可能性があるのは、日本への消費税納税義務が生じる取引です。具体的には、以下の条件に当てはまる国外企業との取引では、PEの有無にかかわらず課税対象となる可能性があります。
・資本金が1,000万円以上の国外企業である
・国内の企業とBtoB取引をしている
・仕入れの代行を国内企業に委託している
・日本国内で商品を売買している
・日本国内でサービスを提供している
個別の取引内容については精査しなければなりませんが、こういった条件のいずれかに当てはまる取引先の場合は、消費税の課税対象かどうか、適格請求書発行事業者登録を行っているかどうかの確認が必要になってきます。
インボイスの影響を受けない海外取引
インボイスの影響を受けない海外取引の代表例は、輸入業者の行う輸入取引です。輸入取引においては、輸入申告を行う輸入業者は、税関へ輸入消費税を納付しなければなりません。この納付を経て保税地域から物品を引き取る際に発行される輸入許可通知書には、適格請求書と同等の効力が認められています。そのため、輸入業者は海外の輸出業者に適格請求書を求めることなく、輸入消費税を仕入税額控除の対象にできるのです。
シーン別、海外取引のインボイス対応と消費税の取り扱い
影響を受ける海外取引の例で挙げたように、インボイス対応が求められる可能性のある取引の範囲はかなり広範囲です。ここでは、取引シーン別に求められる対応と消費税の取り扱いを解説します。
外国法人から輸入する場合
消費税法上、消費税の課税対象となる取引は大別すると「国内取引」「輸入取引」の2つです。輸入取引には輸入消費税がかかりますが、輸入業者が行う輸入取引では仕入税額控除を受けるための適格請求書は不要です。そのため、輸出側が国内取引を行っていない外国法人であれば、特別な対応をする必要はありません。
裏を返せば、国内取引のある外国法人から輸入する場合や、他社から委託を受けて輸入を代行する場合などは、該当する消費税の取り扱いを確認する必要があります。
外国法人へ輸出する場合
外国法人へ輸出する場合は、輸出先の事業者がどのような事業規模であれ、輸出する側である自社が国内における課税事業者ならば、適格請求書を発行する義務があります。つまり、国内へ販売するときと同様、一取引先として適格請求書を発行すればよいということになります。輸出先の国がインボイス制度を導入しているならば、採用しているフォーマットに合わせた適格請求書を用意する必要があるのです。
冒頭でご紹介したシンガポール・オーストラリア・EUといったようなPeppol規格導入国であれば、国内インボイスとのフォーマットの乖離による事務負担は独自規格の国ほどは大きくないでしょう。しかしながら、国外向けに作成し直すとなると、取引先企業へ必須となる記載事項を確認するなどの対応は必要になってきます。柔軟な請求書作成が可能な環境を前もって準備しておくのが肝要です。
外国法人が行う輸入手続きを国内法人が代行する場合
国内にPEを持たない外国法人(以下、A社)から顧客が商品を輸入したい場合、PEのないA社は国内で商品を物流ルートに乗せる手段が限られます。その場合、A社に委託された国内の代行業者(以下、B社)が輸入手続きや、販売までの商品保管を代行するパターンが考えられます。
このパターンは、商品の販売そのものはA社と顧客との間の取引です。そのため、B社が保管する商品は「A社と顧客との売買が成立する」ことで初めてA社からB社へ一時的に所有権が移転します。そしてB社がA社に代わって「売買代金を顧客から受領し、立て替える」ことで顧客へ所有権が移転し、最終的に取引が成立する流れです。
商品の所有権は、輸入および保管中はA社のままであるため、A社には輸入申告の義務と輸入消費税の納付が発生します。またB社には、国内での商品仕入れと同様の消費税が課税されます。
輸入者・所有権者はA社、一時預かるのはB社という複雑な構図となりましたが、ここでA社が免税事業者かそれとも課税事業者かによって、B社が仕入税額控除を受けるための対応が変わるのです。
・外国法人が免税事業者の場合
A社が免税事業者の場合、B社との国内取引に関しては納税申告の義務が発生しません。この場合、B社の商品の仕入は国内取引に係る課税仕入れとして扱われます。A社は適格請求書を発行できませんが、B社は支払対価の額をもとに消費税額を計算し、仕入税額控除の対象として扱うことが可能です。
・外国法人が課税事業者の場合
A社が課税事業者の場合、B社は通関業者であると共にA社の国内における納税管理人としても扱われ、A社にはB社の倉庫の所在地(国内)での納税義務が生じます。
A社とB社との国内取引は商品販売に係る消費税の課税と、輸入に係る消費税の仕入税額控除の対象となるため、A社には適格請求書を発行してもらわなくてはなりません。
どちらの場合でも仕入税額控除を受けること自体は可能ですが、手続きや計算方法が異なってくるため注意が必要です。
実質的輸入者と輸入申告名義人が異なる場合
国外企業(以下、C社)と自社が直接売買契約を結び、国内の輸入代行業者(以下、D社)に輸入手続きだけを代行してもらっているケースを考えてみましょう。
輸入申告を行うD社は輸入を代行するにあたり、負担した代行手数料や輸入消費税を自社へ請求し、自社もそれに応じています。
実質的に輸入消費税を納めている形になるため、自社としては仕入税額控除を適用したいところです。しかしながら、輸入の申告名義人はD社であるため、この場合は自社が仕入税額控除を適用することはできず、D社へ払った金額は単に国外取引の経費として扱われます。
日本国内で営業する外国法人が消費税を納税する場合
輸出入の取引がなくても、外国法人が日本国内で商品を販売したり、サービスを提供したりしている場合は国内取引に該当するため、消費税の納税義務が発生する可能性があります。
BtoCのみの場合は特に問題ありませんが、BtoBでそのような外国法人と自社が取引する際には、国内で適格請求書発行事業者の登録を行ってもらう必要性が出てくるのです。
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