売掛金回転期間で資金繰り状況を把握しよう!計算方法と長期化への対策をご紹介!
企業経営を継続していくうえで欠かせない資金繰りは、入出金を適切に管理して、資金不足に陥らないようお金の流れをコントロールしていくことを指します。
資金繰り状況を把握し、売掛金を確実に回収していくときに必須となる指標が「売掛金回転期間」と呼ばれるものです。売掛金回転期間を把握することで企業の現状における問題点を明らかにすることができ、さらに善後策を講じることが可能になります。
今回は、売掛金回転期間について、その算出の仕方や問題点の読み取り方をまず解説します。そのうえで、資金繰りの圧迫に繋がる売掛金回転期間の「長期化」の問題点とその対策を考えていきましょう。
売掛金回転期間とは?
売掛金回転期間とはどのような指標なのでしょうか。算出方法も併せて詳しくみていきましょう。
そもそも売掛金とは?
商品を売ったり、サービスを提供したりしたときに、その場で支払いを受けるのではなく、後日代金を受け取ることがあります。このような代金の後払いを認める取引のことを「掛け」と言います。
掛け取引は、取引の当事者同士による与信、すなわち信用関係の醸成によりはじめて成り立つものです。そして、頻繁になされる取引ごとに代金支払いのための資金を準備したり、領収証を授受したりなどの経理上の手間を省き、スムーズな会計処理を実現するものとして、ビジネスにおいては一般的な取引手法となっています。
「売掛金」とは、この掛け取引によって生じた債権の未収額のことです。そして、売掛金は、「相手との継続的な取引を前提とした、メインの営業活動による債権の未回収代金」と定義されています。したがって、実際には売却代金や請負代金、あるいはサービス料金における未収金額を指すものです。
経理や会計における似た勘定科目としては「未収入金」がありますが、こちらは会社が保有する土地や有価証券の売却など単発取引での未回収の代金を指し、売掛金とは区別されるので注意が必要です。
売掛金回転期間
売掛金回転期間とは、売掛金の回収速度を知るための指標であり、月数で表すことが一般的です。
売上高が大きければ売掛金の残高も多くなるのが普通です。そこで、売上高に対する売掛金の割合を出せば、企業が保有する債権の未収額がおおよそ何ヶ月分の売上に相当するのかが分かります。言い換えると、代金の回収にどれくらいの時間がかかっているのかを明らかにできるということになるでしょう。
なお、企業が取引の際に受け取る債権には、売掛金の他に受取手形もあります。口約束で成立する売掛金と異なり、受取手形には強い法的拘束力があります。また、手形割引や裏書譲渡が可能であることから、資金繰りの改善にも活用されることが少なくありません。
売掛金と受取手形を合わせて売上債権と称し、その回転サイクルを明らかにしたものは「売上債権回転期間」と呼ばれ、こちらを企業の資金繰り状態の把握に活用することもよくみられます。
売掛金回転期間の計算式
売掛金回転期間の計算式は、次の通りです。
売掛金回転期間 = 期末売掛金 / 平均月商(年間売上高 ÷ 12カ月)
たとえば、年間売上高2億4,000万円、売掛金が4,000万円だとすると、以下のように算出できます。
売掛金回転期間= 4,000万 / (2億4,000万 ÷ 12) = 2
この例では、代金を現金として回収できるまでに平均して2ヶ月を要していることが分かります。
売掛金回転期間から何がわかるのか
ここでは、売掛金回転期間から何が分かるのかを詳しくみていきましょう。
売掛金回転期間の見方(比較手法)
自社の資金繰り状態を把握するためには、算出された売掛金回転期間を目安や相場など他の数値と比較することが欠かせません。主な2つのやり方をご紹介します。
・ 同業他社との比較
一般的には1~2ヶ月以内が目安とされる売掛金回転期間ですが、じつは業種により平均が異なります。漠然とよその企業と比べるのではなく、同業他社と比較することが大切です。
売掛金回転期間が同業他社平均より短ければ、順調な代金回収サイクルを回せているといえます。逆に平均から1ヶ月以上長い場合には、資金繰りに問題ありとして売掛金の管理や回収方法の見直しを迫られていると判断できるでしょう。
・過去の回転期間との比較
過去の回転期間との比較から自社の資金繰りの健全性を探る手法も有効です。過去5年、あるいは10年の決算書を使って回転期間を算出すれば、一定のスパンでの推移を明らかにできます。
企業がある程度の期間経営を続けていれば、売掛金回転期間が時期により変わっていくことは珍しいことではありません。ただし、過去と比べ長くなっていれば資金繰りが悪化していることは間違いありませんので、早急な対応が求められます。
企業の資金繰りの状態が把握できる
自社の売掛金回転期間を同業他社や過去の回転期間と比較していくことで、企業の資金繰りの状態を把握できます。
回転期間が短ければ、スムーズで健全な資金繰りが行われていることが分かります。逆に、同業他社や過去との比較から長期化の傾向が明らかになれば、その原因が経営を続けていくうえで許される範囲の長期化なのか、それとも早急な手立てを要する性質の経営課題なのかという検証を行う必要があるでしょう。
見過ごせない原因としては、一般には次のようなことが考えられます。
・粉飾や押込販売
・不良債権の発生
・支払期日が長い債権の存在
このような事由が疑われるのであれば、放置せず迅速に手立てを講じていかなければなりません。
重要なのは自社の回転期間の定点観測を継続していくことです。売掛金回転期間についての定期的なモニタリングをすることは、資金繰りの状態把握と管理業務の効率化を向上させることに繋がります。
売掛金回転期間は長期化しやすい
小売業やサービス業など現金決済が多い業種ほど短い一方で、対企業取引が一般的である卸売業や製造業といった業種では掛金回転期間は長期化しやすいのです。
たとえば、生産者と小売店の間に入って営む卸売業は、小売店からの支払いを受けることができるのは、仕組み上1番最後になります。そのため、回転期間が2ヶ月を超えることも珍しくありません。また、工期が長くなる建設業では、回転期間がさらに長期化すると言われます。工事が完了しない限り入金されないので、場合によっては1年以上かかることになるでしょう。
売掛金回転期間長期化の問題点
売掛金回転期間の長期化は、代金回収に時間がかかることを意味します。以下、その結果として出てくる問題点を解説していきます。
手元資金が不足する
売掛金回転期間の長期化は、手元資金の不足をもたらします。売掛金には、製造費用や商品費用はもちろん、売掛債権の管理費用などさまざまなコストがかかっているのです。
長期化傾向に拍車がかかれば、乏しいキャッシュから仕入代金や人件費はもちろん、借入返済金を捻出することになります。
融資活用による金利・手数料負担が増える
手元資金不足は、代金が支払われるまでのやり繰りを借金で賄う必要が出てくる場合があります。そして、お金を借りれば金利や融資手数料といった諸費用を負担するが出てくるでしょう。
こうして売掛金回転期間が長期化し、売掛金の回収が滞ることが続くと、プラスの売上にもかかわらず、手元資金の融通がつかないために倒産を余儀なくされる「黒字倒産」の危険性が高まります。
貸し倒れリスクが高くなる
貸し倒れリスクもまた無視できない問題です。貸倒れは「焦付き」とも言われ、取引先の経営悪化や倒産などにより売掛金や受取手形など、売上債権の回収が不能になることを指します。
売掛金の回転期間が長くなるということは、あらかじめ決められた日時までに代金の支払いがなされていないことを意味します。期限を守れない債務者は通常、経営上の何かしらの問題を抱えていることが少なくありません。こうした事情に気が付かないでいるか、あるいは知っていながら放置し続けることはとても危険です。もし取引先が倒産してしまったら、売掛金回収の見込みはゼロになってしまいます。
貸し倒れリスクについても、自社の資金繰り同様に先手の対策が肝要です。取引先の経営状態にまつわる情報に常にアンテナを張っておき、資金に困っているような兆候がみられないか注意しておきましょう。
売掛金回転期間長期化への対策
売掛金回転期間の長期化に対しては、いかなる対策をしていけばよいでしょうか。4つの対策をみていきましょう。
売掛金の管理状況を見直す
長期化対策としてはまず、売掛金の管理状況を見直すことから始めましょう。
長期化傾向が目立つ企業では、そもそもの売掛金管理の仕組みが不充分であることが少なくありません。見落としを防ぐために支払いが遅れている取引先名を太字にしたり、背景色をつけたりといった処理をするだけでも管理上には十分効果があるものです。
その際、金額の把握はもちろんのこと、遅延期間についても、たとえば30日を1つの目安として期間で分けて記録しておくと、回収の優先度を明らかにできるでしょう。
実際の回収作業にあたっては、請求書の送付に始まり、電話による督促や、それでも入金されなければ、事由により契約の見直しをしたり、支払い計画を策定させたりなどの対応が必要になります。そして、取引先の破綻が明らかになれば、場合によっては債権譲渡や訴訟による回収といった法的手段に訴えることも検討しなければなりません。
こうした仕組み上の工夫と併せて、売掛金を回収することの重要性を経理・営業双方の部署が一丸となって共有することも重要です。たとえ商品を売り上げることができたとしても、その代金を回収できなければ目指す利益を得たとは言えません。そして、きちんと回収することにより資金繰りの健全化を維持できなければ企業が継続や発展を図ることはできず、倒産もあり得ることを互いの部署が任せきりにせずに認識し合うことが大切です。
取引先に対する姿勢も同様です。こちらがいい加減な対応に終始すれば、向こうも「あそこは管理がずさんだから遅れても大丈夫だろう」と思われてしまいます。受注には書面を交わし、支払いが遅延したら必ず督促を行い支払いできる日の確認を取るなど、営業での基本的な手続きをきちんと踏むことで取引先の誠実な対応を促すことができます。
分割して請求する
売掛金の管理状況の見直しにもかかわらず長期化が改善しないときには、製品やサービスにより可否は分かれますが、分割して請求するというやり方も考えられます。
たとえば、規模が大きく工期が長くなりがちな建設業での請求の場合に、プロジェクト全体の完了を待って入金してもらうのではなく、プロジェクトをいくつかに区切り、フェーズごとに請求する形を採ります。小分けにして請求・回収していくことで売掛金のウェイトを小さくすることができ、売掛金回転期間を短縮できるためその分資金繰りは改善するでしょう。
請求書の支払期日を短縮する
もちろん、請求書の支払期日を短縮できればキャッシュが増えるので、分割請求同様に資金繰りは楽になるでしょう。ただし、これは一方では代金債務者である取引先の支払期日を短縮し、その資金繰りをタイトにするものなのでこちらの都合だけで採れるやり方ではありません。
したがって、自社が提供する製品・サービスが他社に代え難い状況を創り出し、明確なアドヴァンテージが認められるなどの事情がある場合に限り許される手段でしょう。
仕入債務回転期間を延ばす
「仕入債務」とは、商品や材料などを仕入れたものの、代金が未払いとなっている債務のことを言います。
すべての企業は、売上に関しては債権者であると同時に、仕入については債務者の立場にあります。そのため、仕入債務の回転期間を延ばすことができれば、やはり売掛金回転期間の短縮が実現します。先に売上代金を回収してから仕入にかかった債務を返済できるようになるため、手持ち資金の増加とともに資金繰りに余裕が生まれるでしょう。
ただし、仕入債務回転期間が極端に長くなっていたり、事業環境の悪化に伴う長期化傾向が明らかであったりすると、資金繰りの苦しい企業と見做される危険性も出てきますので、安易な採用は控えるべきでしょう。
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