前受金とは?仕訳例や紛らわしい勘定科目、適切な管理方法を解説
「前受金(まえうけきん)」は、「商品・サービスを提供する前に受け取る代金」のことですが、そのまま売上金として計上できません。この記事では、「前受金とは何か」「他の科目と何が異なるのか」など前受金に関する基礎知識を軸に、前受金を効率的に管理・運用する方法を紹介します。
前受金とは
前受金とは、商品やサービスの代金を納品や提供をする前に、一部または全額受け取った際に使用する勘定科目です。将来的に売上高となりますが、お金を受け取った時点で顧客への商品やサービスの提供はまだ済んでいないため、売上高としては計上できません。しかし、お金を受け取ったことから、一時的に何らかの科目で処理をする必要があります。
具体的には、内金や手付金、販売代金の前払い、工事代金の前払い、不動産取引等で発生する手付金・中間金・残金など、商品や継続的ではないサービスの提供代金を事前に受け取った際に使用します。
実際に商品やサービスを提供し終えたら「売上高」という勘定科目に振り替えます。
前受金は「負債」
前受金は、商品・サービス提供の「義務」が残っていることから、「負債」として扱われます。
前受金は受け取る時点において、事業者はお客様に商品やサービスを提供していません。そのため、契約上としては預り金としての意味合いを持っています。もしお客様よりキャンセルの依頼が来た場合は前受金を返還しなければなりません。このため、会社の経営や財産バランスを表す「貸借対照表」の内、前受金は「負債」を表す勘定科目として用いられます。
前受金を負債として扱うことについて、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
▶「前受金が負債科目となる考え方を解説!その他の流動負債も!」
前受金と混同しやすい勘定科目
前受金と混同しやすい勘定科目として「売掛金」「前受収益」「預り金」「仮受金」が挙げられます。ここでは、それぞれの特徴と前受金との違いについて解説します。
売掛金との違い
売掛金は、取引先に販売した商品やサービスの代金を後から回収できる権利であり、未収のものを処理する際に使用する勘定科目です。取引先との継続的な取引を前提とした、事業活動から生じた債権の未収額を指します。具体的には、売却代金の未収分野請求代金の未収分、サービス料の未収分などが挙げられます。
前受金との違いは、売掛金は商品の納品やサービスの提供が完了しているものの、まだお金を受け取っていないという点です。前受金は事前にお金を受け取っているものの、商品の納品やサービスの提供は完了していません。混同しやすい勘定科目ですが、商品の納品やサービスの提供が済んでいるかどうか、お金を事前に受け取っているか・後払いか、などの要素から区別しましょう。
前受収益との違い
前受金は継続的でないサービスの際に使用しますが、前受収益は継続的なサービスに使用するという点で異なります。
前受収益は、一定の契約に基づいて継続してサービスを提供する場合に、事前に代金を受け取った際に使用する勘定科目です。前受収益の具体的な例は、受取利息や地代、手数料、賃貸料、家賃、定期サーバ契約、サブスクリプションなどが挙げられます。
また、前受収益は時間の経過とともに次期以降の収益となるため、繰延して処理をする必要があります。前受金も前受収益もいずれも負債として処理しますが、仕訳するタイミングは、前受金は期中であるのに対して、前受収益は決算時です。さらに、前受金は期首振替が必要であるのに対し、前受収益は翌期首に振替処理を行わなければなりません。
預り金との違い
預り金とは、役員や従業員、取引金などから一時的に預かったお金のことです。後日、本人に返金する、あるいは本人に代わって第三者に支払うお金を処理する際に使用する勘定科目で、税務署に納付するために給料から差し引く源泉所得税や住民税などが挙げられます。預り金には、通常の取引で発生するお金や、発生後短期間で支払われるお金、通常の取引以外で発生して1年以内に返済されるお金が含まれることを覚えておきましょう。
前受金との違いは、預り金は原則としてその後の損益に影響しない点です。これは前受金が商品の納品やサービスの提供完了後に売上高として処理する点に対し、預り金は預かったお金をどこかに支払うことで預かり金が消える流れになるためです。
仮受金との違い
仮受金とは、入金理由や金額が不明な際に一時的に使用する勘定科目です。たとえば、普通預金に取引先から入金があったものの、入金理由が不明な場合などに使用します。入金理由や正確な金額がわかった時点で、正しい勘定科目に振替処理をする必要があります。仮受金の入金があった時点では貸借対照表の負債が増加し、仕訳は貸方に記入することが原則です。
前受金が入金の理由が明確である場合に使用するのに対し、仮受金は入金の理由が不明という点で異なります。前受金は商品の納品やサービスの提供が完了次第、勘定科目を「売上高」に振り替えますが、仮受金は入金理由が明確になり次第振り返るため、処理するタイミングも異なります。
前受金を見分けるポイント
前受金との違いを理解していたとしても、類似した内容の勘定科目と混同してしまいがちです。ここでは、前受金を見分けるためのポイントを3つご紹介します。3つのポイントをもとに、前受金か他の勘定科目なのかを判断しましょう。
資産科目か負債科目かを確認する
まずはその勘定科目が「資産科目」か「負債科目」であるかに着目します。資産科目は「権利」、負債科目は「義務」と捉えてみるとわかりやすいでしょう。仕訳をする際に対象科目を「借方」に処理して貸借対照表で「資産」と計上するべきか、「貸方」と処理して貸借対照表で「負債」と計上するべきかを見極めることが重要です。
前受金の仕訳例は以下のとおりです。
翌月に商品を納品する契約で、商品代金30万円を事前に受け取った
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 300,000 | 前受金 | 300,000 |
翌月に商品を納品した
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
前受金 | 300,000 | 売上高 | 300,000 |
前受金は将来的に商品の納品やサービスを提供する「義務」を負っていることになります。したがって、前受金は「貸方」に「負債」として処理します。
損益との関連性を考える
次に、その勘定科目が将来的に「損益」に影響するかを考えます。前受金は、商品の納品やサービスを提供した後「売上高」に振り返るため「収益」に影響するといえます。前受金と他の勘定科目で判断に迷った際は、将来的に損益に影響するかどうかで判断しましょう。
なお、前受金で気を付けたいのは「売上高」に振り替えるタイミングです。売上高に振り替えるタイミングは、商品の納品やサービスが提供した後でなければなりません。タイミングを誤ってしまうと期間損益に影響するため、注意が必要です。
また、複数の顧客から前受金を受け経った場合は、どの顧客から受け取ったかを把握して管理しなければなりません。区分管理を適切に行わなかった場合、売上高に振り替えるべき前受金を処理しないまま残してしまう可能性があるため注意しましょう。
マトリックス図で整理する
「資産(権利)か負債(義務)か」「損益に影響を与えるかどうか」を軸としたマトリックス図の活用も前受金を見分ける際に役立ちます。マトリックス図とは、縦軸と横軸を用いて縦横に項目を配置し、その交点から各要素の関係の有無や関連度合いを表す図のことです。重要項目の洗い出しに適しているため、ビジネスではマーケティングなどのテーマ選定に用いられることがあります。
前受金を見分ける際は、マトリックス図に「前受収益」「預り金」「仮受金」「売掛金」など混同しやすい勘定科目を配置します。たとえば、「資産(権利)か負債(義務)か」を横軸に、「損益に影響を与えるかどうか」を縦軸に設定すれば、それぞれの勘定科目の役割がひと目で把握できます。
前受金に関連する主な帳票
前受金に関連する主な帳簿は以下のとおりです。なお、会社や業界によって呼び方が異なる場合もあります。
・前受元帳
取引先ごとの前受金の発生と売上高への振り替えを確認する際に用います。
・債権元帳
取引先ごとに任意の期間の売上金額と入金金額の日別取引など、差引残高を確認する際に用います。
・前受残高一覧表
取引先ごとの繰越残高や借方、貸方、差引残高などを確認できるため、前受金管理に用います。
・入金予定一覧表
請求書を発行した取引先ごとの取引先名や請求項目、入金予定日、入金方法、入金予定金額などの入金予定に関する情報を一覧にしたものです。
「収益認識に関する会計基準」における前受金の定義
2021年4月から適用される「収益認識に関する会計基準(新収益基準)」では、「契約負債」という科目が追加されています。契約負債とは、企業から商品・サービスの提供を受けるために顧客から支払われた、または支払い期限に達している対価を指します。
前受金は顧客から支払われた対価のみが対象になっていますが、契約負債は支払い期限に達している対価も含まれていることが相違点です。発行後の商品券、商品・サービスの購入特典として付与されるポイントなどが契約負債に該当します。
新収益基準では、前受金・前受収益に並ぶ表記として契約負債が用いられます。今後は、賃借対照表において前受金とされてきた勘定科目が契約負債へと表記変更されるケースが増加するでしょう。
前受金管理のポイント
前受金管理を適切に行うには、売上計上できるタイミングや前受金の受領、取り崩しの仕訳などを適切に把握しておくことが大切です。会計情報を充分に把握せず管理を行うと、書類が読みづらくなる、書類と実際の会計情報が異なるといった問題が生じるリスクが高まります。ここでは、前受金を計上する際の基準や記帳の仕方など、知っておきたい知識を紹介します。
売上計上できるタイミング
「前受金」を売上として計上できるタイミングは、商品・サービスの納品が完了した時です。納品前に受け取った代金は、その時点では売上として計上できません。しかし、お金は受け取っているので、何かしらの処理をしなくてはなりません。
前受金の受領が複数ある場合は、顧客管理を徹底することが重要です。どの顧客からいくら受領しているのか、売上として計上できる日はいつなのかといった区分管理を怠ると「負債」として前受金が残ってしまいます。
3か月・6か月・1年など、企業は一定の期間で損益を計算する必要があります。前受金を売上として振替処理するタイミングがずれると、期間損益に影響を及ぼすためしっかりと管理しましょう。特に決算期の期末には、前受金の残高が0円になるようにしておきましょう。期末になっても前受金の残高が残っているということは、入金の理由が分からないなど取引の内容が不明瞭なまま決算を迎えるということです。このような状態では企業の財務管理体制に不備があることが危惧され、企業が決算期に作成する財務諸表の信頼性が疑われる可能性があります。
受け取り時の仕訳
負債の勘定科目は、負債が増加した際は「貸方」、負債が減少した際は「借方」に記載します。例えば、「前受金として1万円を現金で受け取った場合」は1万円という現金(資産)が増えたので、借方に「現金 10,000円」と記載します。一方、前受金という負債が1万円増えたので、貸方に「前受金 10,000円」と記載する仕組みです。
取り崩された時の仕訳
販売が成立すると、商品・サービスを納品する「義務」がなくなるため、負債である前受金も消滅します。これが前受金の「取り崩し」です。
「10万円の商品に対し、前受金として1万円を受領した」時点では、借方に「現金 10,000円」、貸方に「前受金 10,000円」と記載されています。前受金が取り崩された際の仕訳は以下の通りです。
「商品を納品し、代金10万円から前受金1万円を差し引いた9万円を現金で受領した場合」を見てみましょう。この場合、「負債である前受金が1万円減った」「資産である現金が9万円増えた」「収益である売上高が10万増えた」の3つを表す必要があります。
今回は負債が減ったので、まず「借方」に「前受金 10,000円」と記載します。次に資産である現金が増えたので、「借方」に「現金 90,000円」も追記してください。前受金として受け取った1万円と現金で受け取った9万円を合わせた10万円が収益となるため、収益の定位置である「貸方」には「売上 100,000円」と記載します。
取引キャンセル時の仕訳
顧客から料金を受け取った後に取引キャンセルが発生した場合、基本的には受け取った料金を「貸方」、返金する前受金を「借方」に記載します。キャンセル料は事務手数料や損害賠償金といった名目が用いられる場合もあり、請求する条件によって適切な仕訳や消費税の取り扱いが異なる点に注意しましょう。
解約、返金対応等の事務手数料として受領する分は、事務作業の対価に該当するため課税対象です。一方、解約時に損害賠償金として受領する分は、逸失利益の補填に該当するため課税対象にはなりません。また、事務手数料と損害賠償金を区分せずにキャンセル料として一括で受領する場合も課税対象外です。
消費税は課税されない
消費税は資産の引き渡しやサービス提供時に課税されるもので、前受金は課税対象外です。前受金を受領した段階では資産やサービスが顧客へ提供されていないことため、課税されません。
例えば、宿泊施設の予約料金や工事料金などを前払いで受け取った時点では、前受金として扱われるため消費税の課税対象外です。しかし、取引完了後に前受金を取り崩し、売上として計上した時点で課税対象に変わります。前受金を売上計上する際は、消費税が課されることを考慮して仕訳を行いましょう。
受け取った金額に含まれている消費税は仮受消費税として仕訳を行い、決算時に仮払消費税と相殺処理することで未払消費税を算出します。消費税率が異なるものを取り扱っていたり、課税対象にならない取引を実施していたりする場合は、個別に計算が必要です。なお、仮払消費税の方が多かった場合、未収消費税として計上することで還付の対象になります。
前受金として処理する取引の具体例
前受金は金額が確定しており、主目的たる事業に関係する取引において使用される勘定科目です。取引の詳細が明らかになっていない場合には「預り金」や「仮受金」として仕訳を行うことが一般的です。ここではいくつかの業種を対象として、前受金処理の具体例を紹介します。
小売業である場合、取り扱う商品の仕入れ代金を受け取ってから買い付けを行う際の代金、予約販売する商品の料金を受け取ってから販売する際の料金などが前受金に該当します。
飲食業である場合、団体予約や貸し切りなどの利用客から受け取った手付金、ケータリングサービスの利用客から受け取った手付金などが前受金です。
サービス業である場合、回数券や年間パスポート等の購入代金、講演会の参加費用として事前に受け取る料金などが前受金に該当します。
各業種での共通点として、将来的に売上になる手付金、仕入れ代金などは前受金として処理できることが挙げられます。勘定科目の分類に迷う場合、商品・サービスの受け渡し完了時点で売上に振り替えられるかを考慮して分類を決めるようにしましょう。
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