税効果会計とは?目的・手順・差異・注意点などを解説!
経理が行う会計処理は多岐に及びますが、その中でも税効果会計は上場企業をはじめとして多くの企業で義務付けられている重要な会計処理です。税効果会計を簡単に説明すると「減税の手法に一切関係なく自社の利害関係者(ステークホルダー)に適切な情報を提供するためのもの」となります。
本稿ではステークホルダーとの関係構築に重要となる税効果会計について詳しく見ていきましょう。
税効果会計とは
税効果会計が一体どんなものなのかを理解するためには、まず「会計」そのものについて理解を深める必要があるでしょう。会計という業務は会社の経理担当者が財務会計と管理会計をまとめる「企業会計」と、法人税をはじめとするルールに基づいて作成される「税務会計」の2つに分ける事が出来ます。企業会計は会社が利害関係者に財務状況を報告するために行われるものであるのに対して、税務会計は課税所得を国・地方公共団体に報告するためのものであり目的が違うのです。
この2つの会計ではそもそもの考え方が異なるため、企業会計において費用として計上されているものが税務会計でも同様に計上されるとは限りません。こうした認識のズレを調整し、適切な期間配分を実現するために用いられる手続きが「税効果会計」です。こうした認識の違いによって発生するズレのうち、近い将来に修正されるのが判明しているズレを「一時差異」と呼ぶ事も覚えておきましょう。
適用される企業
税効果会計はすべての企業で義務付けられている手続きではありません。まず、基本的に上場企業であればすべての会社が税効果会計の適用が強制されます。加えて、非上場企業の場合でも金融商品取引法の適用を受けている会社や、会計監査人を設置している会社であれば税効果会計が義務付けられるので注意しておきましょう。なお、非上場の中小企業は一般的に税効果会計の手続きは強制されません。非上場の中小企業は税務会計ベースで処理が行われており、そもそもズレが発生しないので税効果会計を行う必要がないのです。
財務会計と管理会計と税務会計
企業会計と税務会計の間で一時差異が発生すると言われてもピンと来ない人も多いでしょう。一時差異の発生源理については、「財務会計」「管理会計」「税務会計」のそれぞれについてしっかり理解しておく事が重要です。ここからはこれら3つの会計について詳しくご紹介します。
財務会計
企業会計のうち、財務会計は当該期における自社の経営状態を社外の利害関係者へ開示する事を目的として作成されるものです。利害関係者には投資家・取引先・金融機関など大小様々な対象者が含まれています。多くの社外関係者に公表されるものであるため、公正と認められる基準に即して作成する必要があるのです。したがって、財務会計の公表には貸借対照表や損益計算書などを含む財務諸表(決算書)が用いられます。なお、貸借対照表は会計期間終了時点での企業の資産・負債・純資産といった財務状態を、損益計算書は会計期間においての企業の経営成績を表す指標です。財務会計ではこうした公正なデータを基にして、経営者と株主の利害を調整していきます。
管理会計
一方、企業会計のもうひとつの要素である管理会計は業績の現状把握や経営判断の材料として用いるために作成されるものです。財務会計が「社外」の関係者へ公表する事を目的としているのに対して、管理会計は「社内」で利用する事を目的としている点が大きく異なります。また、財務会計は公正な財務諸表を用いて一定のルールの下で作成されますが、管理会計の基準とするためのデータには特に決まりがありません。業務プロセスや収益性分析、原価分析など様々な観点を各社が独自に考慮して作成します。作成された管理会計を基に、企業は事業計画書や中期経営計画を策定したり、取締役会の資料を作成したりするのです。また、予実管理と分析にも管理会計による資料が役立てられます。
税務会計
税務会計は法人税法などの規定に則って処理される会計の事です。企業の所得のうちいくらが課税対象であるかを正確に把握する事を目的としています。申告先の課税庁を利害関係者のひとつとして捉える事が出来るので、正確には税務会計は財務会計に含まれていると言えるでしょう。ただし、財務会計を含む企業会計と税務会計では前述の通り目的が異なるため、収益・費用の記載内容が完全には一致しないケースが多いです。そのため、財務会計と税務会計は別々のものとして扱われるのが一般的となっています。
企業会計と税務会計の違い
企業会計(財務会計+管理会計)と税務会計では、報告先となる利害関係者が異なります。そのため「計上項目」と「会計方針」の2点において差異が発生する事になるのです。企業会計において会社の儲け分は「収益-費用=利益」という計算式に基づいて計上されますが、これに対して税務会計における儲け分の計算式は「益金-損金=所得」になります。計算に用いられる計上項目が異なるため、当然計算内容も違ったものになるのです。例えば税務会計において収益として計上して課税対象となるものであっても、企業会計に基づいて考えると「実際に企業の利益を圧迫している」と捉えて費用として計上する場合があります。代表的なものには保険料などが挙げられるでしょう。
また、企業会計は利害関係者に公表するという性質上、会社としては利益を大きく見せたいという思惑があります。しかしこの心理は粉飾という不正に繋がってしまう可能性があるため、企業会計では利益の計上に厳正な基準を設けられるというのが一般的です。一方の税務会計では企業所得が大きくなれば課税額も増えてしまうため、会社としては出来るだけ所得を小さく計上したいところでしょう。そこで逆粉飾を防ぐために、報告を受ける国や自治体は企業に対して利益はしっかり益金として計上するよう促します。これが企業会計と税務会計における会計方針の差異です。
税効果会計の手順
税効果会計を行うには、正しい手順を把握しておく事が重要です。税効果会計では決算時にまず企業会計と税務会計の間に生じた一時差異の正確な集計・把握を行います。近い将来に解消される差異が一時差異ですが、これに対して将来的に解消される見込みのない差異を「永久差異」と呼ぶ事を覚えておきましょう。永久差異は税務会計として計上出来ないので注意が必要です。例えば社内の罰金や交際費といったものは、時間経過によって解消されるものではないので永久差異となります。
一時差異が集計出来たら、次はこの一時差異に法定実効税率をかけて「繰延税金資産」や「繰延税金負債」を算出しましょう。法定実効税率は法人税・住民税・事業税といった表面税率を用いて算出した総合的な税率となっています。なお、繰延税金資産は「将来減算一時差異(差異解消時に課税所得が減るもの)×法定実効税率」、繰延税金負債は「将来加算一時差異(差異解消時に課税所得が増えるもの)×法定実効税率」という計算式で求める事が可能です。このうち、繰延税金資産は将来的に回収可能な見込みがあれば税金分から減額する事が出来るので覚えておきましょう。
税効果会計の目的
わざわざこのような手順を踏んでまで税効果会計の手続きを行うのには、大きく分けて2つの目的があるのでここで押さえておきましょう。
まず、税効果会計を行うと繰延税金資産を貸借対照表に計上する事が出来るようになります。これによって会社の自己資本比率が改善されるというメリットがあるのです。自己資本比率はその企業における財務の健全性を推し量るひとつの指標とされており、自己資本比率が優良な値であれば銀行からの融資を受けやすくなるといった効果が期待出来ます。このように「経営指標を改善する」という事が、税効果会計の目的の1つなのです。
もう1つ、税効果会計には「投資家へ提供する情報の正確性を確保する」という目的があります。特に上場企業のような規模が大きい会社では、企業会計と税務会計のズレも看過出来ない数値になるでしょう。こうしたズレを税効果会計によって調整しないと、会社の業績に関係無く損益計算書上の当期純利益が大きく上下してしまうという現象が起きてしまうのです。その結果、投資家をはじめとする利害関係者達は企業の正確な財務状況が把握出来なくなり混乱を招いてしまいます。税効果会計では会計上のズレを調整する事で情報の正確性を向上させ、こうした混乱を未然に防ぐという効果もあるのです。
決算書と利害関係者の関係
ここまでで税効果会計は金融機関からの融資が受けやすくなる、そして投資家など利害関係者の混乱を防ぐという効果が期待出来る事が分かりました。それでは最後に、税効果会計と深く関わっている決算書(財務諸表)が企業の各利害関係者にどのような影響を及ぼしているのかを把握しておきましょう。
金融機関
銀行をはじめとする金融機関は、企業にとって「資金繰りの拠点」や「掛金や買掛金の支払い窓口」となる重要な利害関係者です。銀行としては企業に貸し付けたお金が返ってこないというリスクは極力避けたいところでしょう。貸し倒れリスクの高い企業に対しては、当然銀行も融資を渋る事が考えられます。銀行が企業に融資を行うか否か、返済の遅延や倒産といった可能性の判断基準となる重要な情報が決算書なのです。融資の審査を行う際には、決算書の中の「損益計算書上の売上総利益」「営業利益」「貸借対照表の在庫」「売掛金残高」「借入金残高の傾向」など様々な項目が重要視されているので留意しておきましょう。
株主・投資家
株主や投資家は利害関係者の中でも「ストックホルダー」と呼ばれるほどに大きな利害関係があります。企業にとって、株主や投資家の存在は貸借対照表の「資本金」に直結しているのです。株主は継続して投資し続けるかどうかを、投資家はその企業に投資するかどうかを決算書の数字を参考にして検討します。ここで重要になるのは損益決算書に記されている売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益の5つです。ただしそれだけではなく、株主や投資家は企業の安定性・将来性を見極めるために自己資本比率・流動比率・固定比率といったポイントにも着目している事にも留意しておきましょう。
取引先
取引先は企業が経済活動を続けていく上で不可欠な存在とも言える利害関係者です。取引先が決算書を参照するのは、主に新規の取引契約を結ぶ時となります。新しく利害関係を結ぶ企業が本当に信用出来るかどうかを決算書から読み取って与信管理を行うのです。ある程度の期間継続して黒字経営が出来ているか、負債割合は多すぎないかなどが主なチェックポイントになると言えるでしょう。一般的に販売先の場合は商品やサービス信頼性を、仕入先の場合は売掛をはじめとする信用取引の可否などが判断されます。
顧客
商品・サービスを購入する顧客は企業にとって直接的な利益をもたらしてくれる唯一の存在と言えるでしょう。その一方で、商品やサービスの欠陥、業績が低下した事による品質低下や値上げといった直接的な害を企業側が与えてしまいがちな存在とも言えます。利害関係の緊密さから考えても、顧客は重要なステークホルダーなのです。
一般的には消費者としての1顧客が企業の決算書を参照する事は稀と言えるかもしれません。ただし、住宅をはじめとする高額商材に関しては支払いが長期に渡るケースがほとんどであるため、倒産リスクを考えて顧客が決算書を他社のものと比較するといった可能性は否めないでしょう。会計的な専門知識がなければ決算書を細部まで理解する事は難しいですが、負債額・利益率といった分かりやすいポイントは判断材料とされる場合があります。
従業員
意外と見落としがちではありますが、自社の従業員も立派な利害関係者となります。重要なステークホルダーである顧客の獲得や優良取引先の開拓など、収益・費用の発生に直接関与しているのは他でもない従業員なのです。
例えば会社の業績が不振に陥ってしまい、従業員の給与やボーナスをカットしたとしましょう。すると従業員の仕事に対するモチベーションは下がり、商品やサービスの品質低下といった事態を招き兼ねません。こうなれば顧客が商品を購入してくれなくなり、さらに業績が低迷するなどの悪循環が発生する危険は高いです。人事担当の役員は従業員の能力を適正に評価した上で決算書を参考に経営方針や戦略、カットすべき予算の見極めを行う事が重要になります。
税効果会計は企業のステークホルダーを結びつける重要な要素
今回の記事で税効果会計への理解は深まったでしょうか。非上場の中小企業は強制ではありませんが、上場企業や非上場企業の一部は税効果会計が義務付けられているので十分注意しましょう。税効果会計による会計処理は、一時差異を調整する事で正確かつ分かりやすい決算書を実現します。その結果、銀行からの融資や株主・投資家の混乱防止につながるのです。税効果会計の仕組みをしっかりと理解し、明朗な会計処理を心がけましょう。
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