仕入税額控除とは?計算方法や保存要件なども紹介
課税仕入れを行っている事業者が納税を行う際、取引相手から預かった消費税をそのまま納付してしまうと、二重課税が発生しキャッシュフローが悪化する可能性があります。そのような事態を解消するためには、仕入税額控除という税制処理が必要です。
この記事では、仕入税額控除に関する基礎知識から、2023年に実施が決定しているインボイス制度が仕入税額控除に与える影響までご紹介します。
仕入税額控除とは
仕入税額控除とは、消費税を算出する際に、課税売上の消費税額から課税仕入れの消費税額を差し引く制度です。仕入税額控除をしなければ、取引相手側・事業者側の両方が消費税の課税対象となる「二重課税」の状態になってしまいます。
ここでは、具体的な仕組みや対象となる取引、申請時に必要となる書類の保存要件についてご紹介します。
仕入税額控除の仕組み
確定申告時に、課税仕入れ時の消費税額を控除することで消費税額が累積しないようにするのが、仕入税額控除の基本的な仕組みです。
仕入税額控除を行うと、確定申告の際に実際に納税する消費税の額は、買い手である取引相手側が事業者に払った分の消費税額から、売り手側の事業者が仕入れ時に負担した分の消費税額を引いた差額になります。
仕入税額控除の対象
仕入れ時に消費税がかかる商品であれば、基本的には仕入税額控除の対象になります。具体的には下記が挙げられます。
●商品等の短期的に消費される棚卸資産の購入
●商品の生産に必要な原材料等の購入
●機械や車両、建物等の事業で用いる資産の購入または賃借
●商品の宣伝広告のために支出した広告宣伝費
●電話代やインターネット接続料などの通信費
●水道代・ガス代・電気代などの水道光熱費等の支払い
●帳簿や文房具などの事務用品、電球やティッシュペーパーなどの消耗品等の購入
●固定資産などを修理・改修するための修繕費
●業務の一部を外部委託するための外注費
また、加工費や人材派遣料等のサービス提供の対価も仕入税額控除の対象となります。一方で、非課税の取引や給与の支払い等に関しては対象外となるため注意しましょう。
仕入税額控除に必要な書類と保存要件
仕入税額控除を受けるためには、法定事項が記載されている帳簿と請求書等の保存が必要です。
帳簿への記載事項は、課税仕入れ・特定課税仕入れ・保税地域からの課税貨物の引取りの3つのケースがあり、それぞれ多少異なります。記載漏れがないように、よく確認しておきましょう。
課税仕入れでは、下記の記載が必要です。
●相手方の氏名又は名称
●課税仕入れを行った年月日
●課税仕入れに係わる資産または役務の内容
●支払い対価の額(消費税額及び地方消費税額に相当する額を含む)
特定課税仕入れでは、下記の通りです。
●相手方の氏名又は名称
●特定課税仕入れを行った年月日
●特定課税仕入れの内容
●支払い対価の額
●特定課税仕入れに係るものである旨
保税地域からの課税貨物の引取りでは、下記の通りです。
●課税貨物を保税地域から引き取った年月日
●課税貨物の内容
●課税貨物の引取りに係る消費税額および地方消費税額または両方の合計金額
請求書等の保存では、領収書・納品書・自社で作成する支払通知書なども対象になります。ただし、以下の事項が記載されていることが条件です。
●相手方の氏名又は名称
●購入した年月日
●取引内容
●税率ごとに区分した取引の金額
●請求書等の交付を受ける者の氏名又は名称
特に注意すべきなのが、税率ごとに区分した取引金額の記載が必要なことです。消費税額の増税とそれに伴う軽減税率の導入により、現在は消費税率が10%と8%の商品が混在しています。そのため、仕入税額控除の申請時には、どちらの税率が適用されているかを明確にしなければなりません。現行で活用している会計ソフトで対応できれば問題ありませんが、複数税率に対応していなかった場合、新たなシステムの導入や業務フローの見直しが必要になる場合もあるでしょう。
また、帳簿・請求書ともに、事業年度終了の2か月後(消費税の申告期限)から7年間の保存義務があります。
仕入税額控除の計算方法
先述したように、仕入れ税額控では、原則として取引相手側から預かった消費税額から、事業者が外部に支払った消費税額を差し引く計算方法で納税額を算出します。しかし、一部控除やみなし仕入れ率を用いた計算など例外もあります。
また、計算する際に欠かせないのが、課税売上割合です。これは売上の何%が消費税の対象になるのかを表す割合で、課税期間中の課税売上高を課税期間中の総売上高で割ることで求められます。ここでは、仕入税額控除の計算方法をご紹介します。
全額控除
課税期間中の課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上の場合に適用される計算方法です。課税仕入れにかかる消費税を全額控除でき、納税額が少なく済みます。また、計算は仕入れが課税取引か否かを分けるだけでいいため、事務処理の手間もかかりません。
しかし、全額控除の条件に満たない場合は、次にご紹介する個別対応方式か一括比例配分方式で計算する必要があります。
個別対応方式
課税期間における課税売上高が5億円を超える場合や課税売上割合が95%未満の場合は、課税売上に対応する部分のみを区分して控除することになります。区分は、課税売上のみの場合、非課税売上のみの場合、双方に共通する場合の3つに分類されます。課税売上のみであれば全額を控除され、非課税売上のみの場合であれば控除されません。双方に共通する場合は、課税売上割合の分だけ控除されます。つまり、課税売上への貢献度が大きい課税仕入れほど、仕入税額控除に計上される額も大きくなる仕組みです。ただし、一つひとつの取引を区分しなければならないため事務処理に手間がかかります。
一括比例配分方式
課税仕入れの内容を区分せずに全額を課税売上割合でかけて計算する方法です。非課税売上が多い場合は、一括比例配分方式を利用すると納税額を抑えられます。ただし、課税仕入れ額が多く課税売上割合が少ない事業者は、納税額が大きくなり損をする可能性があるため注意しましょう。また、一括比例配分方式を適用した場合は最低でも2年間は個別対応方式への変更ができません。自社の商材や取引内容を考慮して慎重に判断しましょう。
簡易課税制度
上記で紹介した計算方法とは別に、課税売上高にみなし仕入れ率をかけて納税額を計算する方法もあります。それが簡易課税制度です。課税売上高さえ求められれば、区分はもちろん課税仕入れ税額の計算もせずに済むため、事務負担を軽減できます。
簡易課税制度は、課税期間もしくは事業年度の2年前の課税売上高が5,000万円以下である場合に適用可能です。利用前には、消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要になります。
一般比例配分方式と同様に、最低でも2年間は他の計算方法を選択できないためご注意ください。また、適用されてから課税売上高が5,000万円を超える課税期間があった場合には、対象期間は原則の計算方法で納税額を算出する必要があります。
なお、みなし仕入れ率は業種ごとに異なります。例えば第1種事業である卸売業の場合は90%ですが、第6種事業である不動産業では40%です。
インボイス制度は仕入税額控除にどう影響する?
インボイス制度が施行されると、仕入税額控除を受けるためには、原則として税務署に適格と認められた事業者が発行した請求書である適格請求書(インボイス)が必要です。適格請求書には、現行の区分記載請求書の記載項目に、登録番号、税率ごとに区分した消費税額、適用税率の3つが追加されます。適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者に限られます。なお、適格請求書発行事業者になるための申請は、課税事業者にしか認められていません。
インボイス制度や適格請求書発行事業者について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
▶「インボイス制度とは?課税事業者・免税事業者双方への影響なども紹介」
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仕入税額控除では、従来は取引において消費税のかかる全ての課税仕入れが対象になり、帳簿の保存と請求書等の保存が必要要件でした。しかし、2023年にはインボイス制度が施行され、現行の請求書とフォーマットが変更になったほか、免税事業者が仕入税額控除の対象から外されました。インボイス制度の開始による経理業務の複雑化にお悩みの方は、「請求管理ロボ」の導入をぜひご検討ください。
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