滞留債権とは?不良債権との違い・管理方法を一挙解説!
企業間での掛取引で発生する売掛金や貸付金の返済のような、金銭を他人に請求することができる権利のことをまとめて「債権」と呼びます。
この「債権」の弁済を全て順調に受け取ることができれば良いのですが、常にスムーズに完了できるとは限りません。この記事では「滞留債権」を中心に、弁済を受けられなかった債権の影響とそのような事態が発生した場合の対処法についての解説をします。また、滞りなく債権を回収する方法についてもご紹介します。
滞留債権とは
最初に、滞留債権とは何かを説明します。企業にとっての「債権」にはさまざまな種類がありますが、本記事は主に売掛金を念頭において解説します。
期日までに支払いがなされていない債権
まだ回収していない債権のうち、約束された期日までに相手からの入金がなかった債権のことを「滞留債権」と呼びます。基本的には「遅れているだけで後から回収することが可能だと見込まれる債権」が滞留債権に分類され、「回収が不可能だと見込まれる債権」である「不良債権」とは区別されます。
回収が大幅に遅れている債権とする判断基準は企業によって異なるものの、6ヶ月を超えると「長期滞留債権」に分類されるのが一般的です。また、1年を超える滞留債権は会計上のルールであるワン・イヤー・ルールの観点から「長期未収入金」という勘定科目に計上されます。
不良債権との違い
不良債権には、倒産や夜逃げなどによりそもそも回収が不可能になった債権の他にも、著しく回収が困難な債権が含まれます。したがって、長期にわたって回収されていない債権が、回収が遅れているだけの「滞留債権」なのか、回収が著しく困難な「不良債権」なのかを区別する絶対的な基準は存在しません。
しかし、滞留債権を何年も放置すると最終的に不良債権になってしまうため、回収が不能となる前に滞留債権と判断した段階で速やかに回収する必要があります。
滞留債権が発生する要因
滞留債権が発生するケースを、取引先側のものと自社側のものに分類して以下で挙げていきます。
・取引先側
滞留債権が発生する原因の大きなものは経営悪化による資金繰りの不良ですが、他にも未検収やクレームによる未払いなどがあります。
また、「うっかりミス」による未払いも発生しがちです。多くの企業と日々取引を行う中で、支払い管理をエクセルによって人力で捌いているという状況下では、請求業務においてミスが発生してしまう確率も高くなります。その他にも、社内ルールによって複数の請求に対する支払いを一括で行っている場合は、支払期日とのズレによって一時的に支払いが遅れてしまうこともあります。
・自社側
自社に原因がある滞留債権の発生原因としては、出荷と検収の間に月次の締切が挟まったことで発生する未収売掛金である切り替わりや返品・値引きの未修正、売上計上ミスなどが挙げられます。また、営業と経理の間のコミュニケーション不足に起因するミスの他にも、請求忘れや請求漏れ、回収金の消込不備といった要因もあります。
滞留債権を放置するとどうなるのか
発生してしまった滞留債権を速やかに回収せずに放置することは、経営にマイナスの影響を及ぼしますが、具体的に何が起きるのかをみていきましょう。
経営に大きなダメージを与える
売掛金が回収できなくなった場合は、失った売上は売上によって回収するのではなく、利益で埋め合わせる必要があります。そのため、埋め合わせに必要な労力は損失の額面金額から想像されるものよりも遥かに大きいものとなるのです。滞留債権は以下の2つのどちらかになったとき、損失となって経営にダメージを与えます。
・消滅時効制度
民法には債権が消滅する「消滅時効」が定められています。もし時効によって債権が消滅した場合はこれを覆すのは不可能であり、滞留債権は回収不能となって損失となります。そのため、消滅時効が成立しないよう催告をするなどの努力を怠らないようにしましょう。
・貸倒損失
売掛金などの債権が回収不能になることを一般に「貸倒れ」と呼びますが、回収不能となった場合その債権は最終的に「貸倒損失」へ計上される損失になります。注意しなくてはならないことは、「貸倒損失」は損金に算入されるために消費税額が控除となる点です。そのため、安易に貸倒損失として計上することはできず、債権の状況を見極めて処理を行う時期に応じた損金経理を行う必要があります。
信用リスクが発生する
貸倒れが発生した際に「払えなくなった相手が悪い」と考えてしまうことでしょう。しかし、企業が貸倒れで損失を被った場合、「貸倒れを起こすような取引をする企業」「取引をしても代金の支払いを時効成立まで逃げ切れば大丈夫な企業」という社会的な評価、いわゆる「信用リスク」がついてしまい、大きな経営上の枷となります。
したがって、社会的な信用を維持するためにも、貸倒れが発生しないよう十分注意する必要があるのです。
滞留債権の発生を防ぐ方法
ここまで、滞留債権を放置するとどのようなダメージが生じるのか解説してきました。ここからは、滞留債権の発生を防ぐために何をするべきか説明します。
定期的な見直しにより長期未払いを防ぐ
適切な管理や社内ルールが構築できていないと、ミスや督促を避けたことによって、未収の債権が積み重なってきます。これらの存在を忘れてしまったり、回収が困難になったりするのを防ぐためには、定期的に売掛金や貸付金の金額と期限の見直しを行い、長期未収入金に計上となってしまう事態に陥るのを防ぎましょう。
顧客の債権管理を徹底する
取引先が増えてくると、元帳だけでは売掛金を把握するのが困難になります。このようなケースでは元帳と別に売掛金管理簿を作成し、どの取引先にいくら売掛金があり、それらのそれぞれの締切はいつか、返済が滞っている取引先はないかを把握するよう努めましょう。
取引先が債務の返済が滞るような経営状態に陥ってしまうと、債務の取り立てが難しくなるため予防的な措置が重要です。したがって、与信管理をしっかり行う、取引先の情報を集める、売掛金の支払いが滞留している取引先がないか目を光らせるといった、日々の管理を怠らないようにしましょう。
債権回収を怠らない
債権をスーパーで肉や野菜を買う場合に例えて考えてみましょう。このとき、商品をカゴに入れただけで取引完了とせず、レジで代金を支払うことによって取引が成立したとみなすのが一般的です。
ところが掛取引となると、営業と経理部門がそれぞれ独立していることもあり、受注を獲得した段階で取引の成立だと考えてしまう事例が散見されます。取引とは商品を引き渡して代金を受け取ることをもって完結するものなので、受注の獲得に夢中になって売掛金の回収を怠る、という状態に陥らないように注意する必要があります。このように営業部門がやみくもな受注の獲得に走るのを防ぐには、営業部門とは独立した形での与信管理が大切です。
また、売掛金は取引先に金銭を貸しているのと同じという認識を持つ必要があります。そのため、入金が遅れたと判断される場合は迅速に催促を促しましょう。売掛金の回収が滞って手元の現金が不足すれば帳簿上は黒字なのにキャッシュフローがショートした状態、いわゆる黒字倒産に陥るリスクがあることを社内の全員がしっかり認識し、早期に適切な対処を行うことが重要です。
滞留債権の回収方法
ここでは、滞留債権が発生してしまった場合にどうしたら良いのかをみていきましょう。
話し合いの場を設ける
債権回収のためには迅速に動く必要がありますが、いきなり内容証明郵便を送ったり、弁護士に相談したうえで法的措置に出たりすることは、今後も取引を行う可能性があるのであれば避けましょう。
先述したとおり、債務の返済に遅れが生じる最大の原因は人的なミスです。そのため、まずは自社側に部署間の連携不足によるミスや処理ミスがないか確認したうえで連絡を行いましょう。連絡を取る際も責めるような口調ではなく、「ご送金がまだのように見受けられます」「ご送金が本日時点で確認できておりません」など丁寧な内容で催促を行います。もし勘違いで入金が遅れたのであれば、支払い能力はあるはずなので「遅くても2~3日中に振り込みをお願いいたします」と依頼すれば即座に支払いを完了してくれるでしょう。
あるいは納品された商品について何らかの問題がある、クレームがあるといった理由から支払いを渋っている場合もあります。このような場合もしっかりと話し合いを行い、場合によっては返品や値引きなどをして円満な解決に導くことを目指しましょう。
話し合いに持ち込むことは、「資金繰りが悪化して払えない」という可能性を探るためにも有効な手段です。また、資金繰りが悪化している場合、まずは優先順位の高い債務から返済しようと行動する企業が多くあります。そのため、話し合いを行うことで自社の持つ債権の優先順位を上げてもらう効果も期待できるのです。
内容証明郵便を送る
一般的な順序としては「話し合いで解決しなかった次の手段」として先ほど登場した内容証明郵便が使われます。内容証明郵便は「誰が、誰宛に、どんな内容の手紙を、いつ送ったのか」を郵便局が証明してくれる郵便です。
「内容証明郵便」には相手に債権の弁済を強制させる法的拘束力はありません。しかし、交渉の経過の記録になる、特に弁護士の名義で送った場合には、相手に自分の本気度を伝えて心理的プレッシャーを与えるといった役割があります。また、最も重要な消滅時効を中断させる効果を持ち、これらの効果は相手が受け取りを拒否した場合でも発生します。
法的手続きを検討する
内容証明を送っても債権の返済に応じない場合、法的手続きに訴えることになるでしょう。その場合は弁護士費用をはじめ回収に多額の費用がかかるケースもあるため、回収する債権の金額と比べて費用が高額過ぎないか検討します。法的手続きに出る場合は、通常の訴訟を行ったのちに差押えという手順だと回収までに時間と手間がかかってしまうので、ここではそれ以外の手段を紹介します。
相手との話し合いの余地がある場合は、「公正証書の作成」や「民事調停」といった手段が有効です。こちらが明らかに有利な場合は、「支払督促」を使うことで安く短期間で決着できる可能性があります。少額の債権が対象であれば、「少額訴訟」という1回の期日で審理を終えて判決を得る制度を利用できます。
いずれの手段を採るにしても、財産を隠されてしまうのを避けるために、裁判所に仮差押命令の申立書を提出して「仮差押え」をしたうえで手続きを行いましょう。
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ここまでの解説では、期日までに債権を回収することの重要性と滞留債権の回収方法についてご紹介しました。しかし、債権管理や請求業務は担当者の負担が大きく、ミスなく行うのも難しいものです。
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