社員旅行費用を経費で落とせる?計上できる条件やできない事例を詳しく解説
企業の福利厚生における要素の一つとして、社員旅行を実施する企業も少なくありません。社員同士のコミュニケーションやリレーションシップの活性化の他、日々の疲れをリフレッシュさせる、研修カリキュラムと組み合わせるなど、企業ごとに実施理由はさまざまです。
しかし、社員旅行にかかる費用は経費として全て計上できるのでしょうか。実は、場合によっては経費として認められないケースがあります。この記事では、社員旅行の費用を経費として計上する際の条件に加え、認められなかった事例についても詳しくご紹介します。
社員旅行を実施する目的
まず、社員旅行を福利厚生として実施する目的や意味についておさらいしましょう。
社員がリフレッシュできる
一つ目の目的は、日々の業務から解放され、旅行という非日常を味わうことでリフレッシュしてもらおうというものです。リフレッシュや気分転換は本来オフタイムに行われるものですが、毎日の疲れが積み重なり、休日にうまく気分転換の時間が取れなかったり、そもそも気分転換の方法が分からなかったりする方も少なくありません。
過剰なストレスや身体的疲労が蓄積してしまうと、本来持っているスキルを発揮できず、期待の成果が出せなかったり、業務効率が低下したりなどの悪影響も考えられます。
そこで企業は社員旅行を実施し、社員の心身のリフレッシュを図ります。旅行で身体の疲れを癒すだけでなく、非日常な環境を楽しむことでマインドリセットとモチベーションの向上が期待できるのです。
社員同士の親睦を深める
「社員のリフレッシュだけを目的とするなら休日を増やせば良い」と考える方もいますが、社員旅行を実施することで業務外のコミュニケーションを取る機会が増えるというメリットもあります。
特に大きい企業になると、自身が所属する部署以外の社員と面識がないというケースも少なくありません。社員全員が一堂に会する場はなかなか設けられないため、社員旅行を通じて他部署との交流を図ろうとするのです。さらには、普段から交流のある社員同士であっても、業務に関係のない場で親睦を深めることで、それぞれの人となりを知る機会が増え、お互いへの理解が深まります。社員同士の親睦を深めることこそが、社員旅行の醍醐味なのです。
業務効率の向上を図るため
現代社会において企業に所属するということは、個人としての能力値だけでなく、チームや部署・企業単位での団結力が求められます。
業務効率を向上させるには、社員間のコミュニケーションが非常に重要な役割を担っています。あいさつや報連相といった社会人としての基本的なスキルはもちろんのこと、部下を持つ立場になれば新入社員の教育・マネジメントをする機会も増えるでしょう。
社員旅行は、社員全員が同じ体験・時間を共有することで、結束力を高めるきっかけをつくってくれます。一見業務とは関連していないように思えますが、社員同士が一つの目標やビジョンへ向かって団結する姿勢は、企業活動において非常に重要なものです。社員同士のチームワークや連帯感をより強固にさせることで、日々の業務効率を高められます。
社員旅行は経費になる?
さまざまな目的で計画される社員旅行ですが、企業が主催する行事ではあるものの、旅行にかかわる費用が経費として計上できるかどうか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。ここからは、費用に関連した実例を詳しく見ていきましょう。
一般的に福利厚生費として計上される
社員旅行における費用は一般的に「福利厚生費」という経費で計上されます。
福利厚生費とは、給与以外に発生する費用で、企業が各社員に対して支出するもののことです。社員旅行費をはじめ、企業が実施する健康診断や各種レクリエーション、交通費、住宅手当などもこれに該当します。
福利厚生費には、主に法律で企業の支出が定められている「法定福利費」と、各企業それぞれに支出の内容が委ねられている「法定外福利費」の2種類に大きく分けられます。
法定福利費は以下の各種保険料が該当し、どの企業においても定められた割合を企業が負担しなければいけません。労働条件などによっては、全ての保険に社員が加入するわけではありませんが、条件を満たしている社員は以下の保険に加入する義務があります。
●健康保険
●厚生年金保険
●介護保険
●労災保険
●雇用保険
「福利厚生費」は法律的には法定福利費に定められていないので、全て法定外福利費に分類されます。そのため、企業選びの際によく挙げられる「福利厚生が充実している」というのは、法定外福利費が充実しているという意味になります。
福利厚生費として計上する条件
企業が「福利厚生」として設定している条件の全てが、福利厚生費に当てはまるわけではありません。福利厚生費として会計上認められるのは、以下の条件に当てはまる場合に限られます。
●社員全員が利用できること(機会の均等性)
●福利厚生を目的とした常識的な範囲内での支出であること(金額の妥当性)
●現金での支出ではないこと
上記の条件に倣うと、役員のみが利用できるサービスであれば「役員報酬」として計上し、現金やギフトカード・金券類は「給与」として計上する必要があります。企業側が支出する意図が「福利厚生」だとしても、会計上は福利厚生費に当てはまらないケースがあるため注意が必要です。
また、「常識的な範囲内での支出」という条件には、一部を除いて具体的な金額が定められているわけではありません。日本経済団体連合会が発表した「2019年度福利厚生費調査結果」を参照すると、社員一人あたりの法定外福利費における平均額は、24,125 円です。あまりに高い金額が計上されていると、税務調査時などに指摘される可能性もあるため、会計処理の際にこうした平均額を参考にするのもいいでしょう。
社員旅行が経費計上される条件
福利厚生費として計上できる費用には、いくつかの条件があります。それらの条件を踏まえた上で、社員旅行にかかった費用を経費として計上するためのポイントを詳しく見ていきましょう。
参加人数における注意点
福利厚生費として経費計上する場合、社員全員に対して平等に支払われる費用であることが前提になります。そのため社員旅行を実施する際は、欠席者がいないのが理想です。「一部の社員しか参加しない」「結果として参加率が低すぎる」といった場合、福利厚生費としての条件に当てはまらなくなるため、私的旅行という扱いになってしまうこともあります。
したがって、社員旅行では実際の参加人数が重要なポイントとなります。経費計上するためには、企業全体の50%以上の社員が社員旅行に参加する必要があります。また、支店や工場単位で社員旅行に行く場合でも、それぞれの職場における総人数のうち半数以上の参加が求められます。万が一、病気や用事などで欠席者が出ても問題がないよう、十分な参加予定者数を確保しておきましょう。
期間における注意点
福利厚生費として社員旅行の費用を計上するには、社員旅行の期間も重要です。
4泊5日以内であることが条件とされますが、海外旅行における機内泊は宿泊日数にカウントされません。機内泊を除いた、海外に滞在する期間が4泊5日以内であれば、問題なく経費として扱えます。
金額における注意点
あまりにも会社の負担額が多すぎると、社員旅行を福利厚生費として経費計上できず、社員への給与扱いにしなければいけない場合があります。
具体的な金額についてはケースごとに判断されますが、とある旅行サイトでは「一人あたりの負担額は3万5千円~7万円程度が平均」という結果が出ています。基本的に、10~15万円以内であれば「金額の妥当性」の条件に当てはまる傾向です。国税庁のタックスアンサーには具体例が記載されているため、そちらを目安に考案しても良いでしょう。
なお、業務において通常よりも利益が出たからといって、一人あたり何十万円もかかる豪華な社員旅行を行うと、税務調査の際に指摘される場合があるため注意が必要です。
また、タックスアンサーのページにあるように、社員旅行費用は社員が一部を負担しても構いません。その場合は、旅行積立金として給与から天引きする方法があります。ただし、社員に断りなく勝手に給与から天引きすることは、労働基準法違反にあたるため注意が必要です。事前に労働者の過半数で組織する労働組合などと「賃金控除に関する協定」を結んでおきましょう。
社員旅行が経費計上できない事例
ここからは、先述した条件の範囲内であっても福利厚生費として認められなかった社員旅行の事例をご紹介します。
不参加の社員に金銭支給している
社員旅行に参加した社員と参加できなかった社員とで不平等が生まれないようにと、参加できなかった社員に対して現金を支給しようと考える企業があります。しかし、福利厚生費は金銭以外の報酬として提供しなければならないため、社員に現金を支給してしまうと福利厚生費として認められないだけでなく、所得税の課税対象になるのです。その上、現金を受け取った社員だけではなく、社員旅行に参加した社員も課税対象となってしまうので注意しましょう。なお、ギフトカード・金券類でも金銭支給に該当します。
取引先を接待する
福利厚生費は、企業から自社の社員に対して支給されることが前提です。そのため、取引先など外部の人と計画した旅行に対しては福利厚生費が適用されません。社外の人間との接待で使う費用は「接待交際費」という扱いになります。
また、社員の家族が社員旅行に同行する場合も、福利厚生費に該当しません。社員にとっては身内であっても、身内は企業に直接属しているわけではないため、社内における経費計上に関連付けられないのです。
観光を兼ねた旅行
社員旅行はリフレッシュや慰安を目的に計画されるイベントではあるものの、あくまで就業へのリフレッシュやモチベーション向上のために実施されることが前提でなければなりません。そのため、観光しか行わない社員旅行だと私的利用とみなされ、給与として計上する必要が出てきます。
ただし、観光をしてはいけないというわけではないため、日程を組む際に業務の一環である研修・講習のスケジュール、観光のスケジュールと日にちを分けて計画するなどといった工夫をすると、税務処理が容易です。
社員旅行を経費計上するためにすべきこと
最後に、社員旅行の費用を経費として計上するために求められる事柄を、改めて確認しておきましょう。
証拠書類の保管
税務調査においては、「本当に社員旅行が実施されたのか否か」が見定められるため、証拠となる書類を準備しておく必要があります。また、参加人数や旅行の期間、内容なども詳細に記し、経費として処理するための条件を確定させる情報源をまとめましょう。少なくとも、以下の書類は提出できるようにしておいてください。
●参加者一覧のリスト
●スケジュールなどが分かる旅行のしおり
●旅行中に利用した領収書
●集合写真 など
就業規則に明記
社員旅行にかかった支出を経費として処理する際、企業の規則として定められている事柄は、福利厚生費として経費計上する上でとても重要な情報です。「全社員を対象としていること」「福利厚生として定期的に実施するものであること」などと明記しておくと良いでしょう。
また、企業によって対応が異なる事項がある場合も、事前に全社員に周知されるよう就業規則に組み込んでおくのも大切です。
例えば、海外への社員旅行に参加するためにパスポートを取得したい社員がいるとします。この場合、企業がその費用を負担すると定めていれば、パスポートの取得費用は経費として処理できます。企業負担か個人負担かは各企業の規則によって異なるのです。
社員がいつでも確認できるよう、あらかじめ詳しく就業規則としてまとめておくことで、トラブルの回避を図れます。
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