下請法や独禁法違反に注意!インボイス制度における免税事業者との取引への対応
インボイス制度の導入により、課税事業者と免税事業者との取引では、下請法が独禁法違反のリスクが新たに生じました。不当な取引条件や代金の減額は下請法違反、優越的地位の濫用は独禁法違反となる可能性があります。
取引継続にはリスク回避が重要です。適切な対策を講じ、免税事業者との良好な関係を維持しましょう。本記事では、免税事業者と取引する際の対応について解説します。
インボイス制度について詳しく知りたい方は、別記事「インボイス登録はしたほうがいい?登録による影響と準備すべきこととは」をご確認ください。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは?
インボイス制度における免税事業者との取引に影響を及ぼす下請法について解説します。
下請事業者の利益保護を目的とした法律
下請法は正式には「下請代金支払遅延等防止法」といいます。下請法の目的は、立場の弱い下請事業者と優越的地位にある親事業者との間の下請取引を公正化し、下請事業者の利益を保護することです。下請事業者に対する代金支払遅延といった行為は、優越的地位の濫用と見なされ独禁法による規制の対象となります。
下請法は、独禁法を補完するために規定された特別法です。下請法には規制対象の取引が具体的に規定されており、親事業と下請事業者との取引には、まず下請法が適用されます。下請法が適用されない取引については、独禁法を適用するのが原則です。
下請法の規制対象と事業者の定義
下請法による規制の対象となる取引は、親事業者と下請事業者との間の業務委託取引です。具体的には、下記の業務委託取引が下請法の規制対象となります。
業務委託取引 | 親事業者 | 下請事業者(個人を含む) |
---|---|---|
資本金 | ||
1.製造委託 2.修理委託 3.情報成果物作成委託(※1) 4.役務提供委託(※2) |
3億円超 | 3億円以下 |
1千万円超3億円以下 | 1千万円以下 | |
1.情報成果物作成委託(※3) 2.役務提供委託(※4) |
5千万円超 | 5千万円以下 |
1千万円超5千万円以下 | 1千万円以下 |
※1:プログラム作成など
※2:運送、物品の倉庫による保管、情報処理に関わるものなど
※3:※1を除く
※4:※2を除く
製造委託
製造委託とは、物品を販売または製造する事業者が、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託する取引です。
具体的には、部品の製造、製品の組み立て、印刷物の製作などが該当します。ただし、物品委託の対象となる「物品」は動産に限られ、家屋などの建築物は含まれません。
修理委託
修理委託とは、物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどを指します。
具体的には、自動車の修理、家電製品の修理、機械の修理などが該当します。
情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託する取引を指します。
情報成果物とは、プログラム、映像や音声、文字、図形、記号などから構成されるもので、物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般が含まれます。
具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
●プログラム: ソフトウェア開発、アプリ開発、Webサイト制作など
●映像コンテンツ: 映画、テレビ番組、CM、Web動画制作など
●デザイン: グラフィックデザイン、Webデザイン、工業製品デザインなど
役務提供委託
役務提供委託とは、運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託する取引を指します。
ただし、建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、役務には含まれません。
親事業者の4つの義務と11の禁止事項
下請法には、親事業者に課される義務と禁止事項が規定されています。下請法に定められた親事業者の4つの義務と11の禁止事項は下記の通りです。
●義務
1.書面の交付義務(3条)
2.書類の作成・保存義務(5条)
3.下請代金の支払期日を定める義務(2条の2)
4.遅延利息の支払い義務(4条の2)
●禁止事項(4条)
1.受領拒否の禁止(1項1号)
2.下請代金の支払遅延の禁止(1項2号)
3.下請代金の減額の禁止(1項3号)
4.返品の禁止(1項4号)
5.買いたたきの禁止(1項5号)
6.購入・利用強制の禁止(1項6号)
7.報復措置の禁止(1項7号)
8.有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(2項1号)
9.割引困難な手形の交付の禁止(2項2号)
10.不当な経済上の利益の提供要請の禁止(2項3号)
11.不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(2項4号)
インボイス制度に基づく免税事業者・課税事業者間の取り引きで注意が必要となるのは、禁止事項の3と5です。下請法に抵触する恐れのあるケースについては、次章以降で詳しく解説します。
下請法に違反した場合の罰則
下請法に定められた禁止行為を行った場合は、公正取引委員会による指導を受けるのが一般的です。指導に従い、禁止行為の改善がみられない場合には、下請法第7条に基づき勧告を受ける可能性があります。勧告を受けると事業者名や事案の概要などが公表され、風評のリスクが生じるため、十分注意が必要です。
また、書面を適切に交付しない、書類の作成や保存を怠るもしくは虚偽の記録を作成する、立入検査を拒否または魚技の報告をする、などの行為が認められる場合は、下請法第10条・第11条・第12条に従い50万円以下の罰金が課される可能性があります。
独禁法(独占禁止法)とは?
下請法は、規制対象となる取引を具体的に定義し、下請取引を公正化するための法律です。続いては、優越的地位の濫用を防止し、自由で公正な取引を確保する独禁法(独占禁止法)について解説します。
私的独占の禁止と公正取引の確保を目的とした法律
独禁法(独占禁止法)は、正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。独禁法の目的は、不正な取引を防止し、開かれた自由で公正な取引を確保することです。ここでいう不正な取引とは、優越的地位の濫用を指します。
優越的地位の濫用は、立場上の優位性を利用し不当な要求を行ったり、取引先に不利益を与えたりする行為です。優越的地位とは下記の基準に従い総合的に判断されるため、親事業者と下請事業者だけでなく、大企業間・中小企業間の取引にも適用されます。
●取引先の自社に対する取引依存度
●自社の市場における地位
●取引先にとっての取引先変更の可能性
●自社と取引することの必要性を示す具体的事実
独禁法に違反した場合の罰則
独禁法に違反した場合は、公正取引委員会によって改善を促す排除措置命令が下されるのが一般的です。排除措置命令等の法的措置には相当しないものの、違反する恐れがある行為が認められた場合は、未然防止の観点から注意を受けることもあるようです。
また、不正な取引などで著しい損害が生じた取引先から民事訴訟を提起され、損害賠償請求される恐れもあります。さらに、カルテルや私的独占など悪質性が認められた場合は、公正取引委員会に刑事告発される恐れもあるため十分気をつけましょう。
不正な取引を行った者に対しては、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、法人等に対しては5億円以下の罰金が課される可能性があります。また、確定した排除措置命令に違反した場合、違反者に対しては2年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人等に対しては3億円以下の罰金が課される可能性もあるため注意が必要です。
下請法や独禁法に抵触する可能性のある行為
前章では、インボイス制度における免税事業者・課税事業者間の取引に関連する下請法と独禁法について解説しました。ここからは、下請法や独禁法に抵触する可能性のある行為を具体的にご紹介します。
消費税相当額を支払わない
インボイス制度の開始を理由に消費税相当額を支払わない行為は、明確な下請法違反です。例えば、取引完了後に免税事業者であることが判明し、消費税相当額の一部もしくは全部を支払わない行為は、下請法第4条第1項第3号で禁止されている「下請代金の減額」に該当する違法行為となります。
課税事業者になるよう一方的に要請する
今後も踏まえて、取引先が免税事業者に対し課税事業者になること、いわゆる課税転嫁の要請をすること自体は問題ありません。
しかし、立場上の優位性を利用して、「適格請求書発行事業者にならなければ、消費税分は支払えない」「承諾しない場合は、今後の取引を見直す」と言って一方的に課税転換を要請する行為は違法です。独禁法上の優越的地位の濫用に該当する恐れがあるため、十分気をつけましょう。
課税転嫁を含めた価格交渉に応じない
取引先の求めに応じて課税転換を行ったものの、消費税の課税転嫁を含めた価格交渉に応じず、一方的に取引価格を据え置く行為も違法です。課税事業者になったにもかかわらず、免税事業者であることを前提に設定された取引価格を一方的に据え置く行為は、下請法第4条第1項第5号で禁止されている「買いたたき」に該当する恐れがあります。
一方的に取引停止する
インボイス制度の開始に合わせて既存の取引を見直し、必要に応じて免税事業者との取引を解消することは、民法の「契約自由の原則」に該当するため問題はありません。
しかし、取引継続を担保に不当な取引条件等を一方的に提示し、結果として取引停止に至ったケースなどでは、独禁法および下請法に抵触する可能性の高い行為です。一方、最高賞を行った結果、合意が得られず取引終了に至った場合は問題ありません。
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