年会費や月会費などの会員費はどうやって経理処理する?
お金を扱う部署である経理は、企業経営に欠かすことのできない重要な役割を担っています。しかし、最低限の人員で回している企業も多く、業務上のミスや遅延が切実な問題として共有されているのが現実です。特に、会員費に関わる経理業務については、どの勘定科目に計上すべきかの判断が難しいことに加えて損金算入のルールの複雑さもあり、的確に処理していくことは簡単ではありません。
そこで、今回は経理作業での会員費の取り扱いについてまず解説し、続いて経理作業における課題や解決策などをご紹介していきます。会員費にまつわる経理業務の効率化にお役立ていただければ幸いです。
会員費とは
会員費は、どの勘定科目に計上すべきかの判断が難しい費用の1つです。ここではまず、会員費の概要と会員費のうちのどの費用に消費税がかかってくるのかについて解説していきます。
概要
会員費とは、会の開催に向けて、あるいは運営を維持していくために、出席者や会員が支払う費用のことを言います。会員費には、次に述べるように消費税がかかるものとかからないものとがあります。そのため、会費と名の付く費用全てをまとめて会計処理するのではなく、性質に応じてふさわしい勘定科目に仕訳を行っていくことが大切です。
消費税かかる場合とは?
消費税がかかるか否かは、支払う会員費と提供される物品やサービス間の対価関係の有無で判断します。例えば、セミナーや講座などの会費、クレジットカードの年会費、業界団体の広報誌代など対価性が認められる会員費については、消費税の課税対象取引とされます。
一方、町会費や県人会の年会費、税理士会会費のような同業者団体の年会費などは、その団体を運営していくために必要な費用を納めるものです。一般に会費と費用とが対価関係にないことから、不課税取引となります。
会員費の仕訳処理で使用する勘定科目
会員費を性質や使途に応じて適切に仕訳処理していくためには、支払った会員費がどの勘定科目にあたるのかへの理解が欠かせません。ここでは、会員費の仕訳処理で使う一般的な勘定科目をご紹介します。
諸会費
一般的な会員費の支払いに使われる勘定科目です。先に挙げた町会費や団体の年会費など、組織運営に使われることを目的に徴収される対価性のない会員費が該当します。期間が1年などの短期で、かつ金額も比較的少なめのものが多いのが特徴です。
雑費
対価性のない会員費であっても、支払う回数や金額が少ない場合にわざわざ諸会費という勘定科目を新設するのが面倒であれば、雑費として処理することも可能です。
ただし、雑費の総額が大きくなるにつれて費用の内訳が把握しづらくなり、経営課題の発見に支障をきたすなどのリスクも出てきます。あらかじめ会員費の継続的な発生が分かっているケースでは、諸会費の勘定科目をきちんと設けておくことをおすすめします。
交際費
名目上は会員費であっても、例えばロータリークラブやライオンズクラブの年会費などは、親睦を深めるといった社交的意味合いが強くなります。こうした事業運営との直接の関わりが薄い会員費については、原則交際費として処理する決まりになっています。
交際費に関しては、税法上一定額までの経費計上(損金算入)が認められています。このとき、個人事業主に関しては限度額なしで経費計上ができる一方で、法人については資本金を超えるか否かで経費にできる限度額が異なるので注意しましょう。
寄付金
会員費という名が付けられてはいるものの、実態としてみると寄付にあたる類の支出金については「寄付金」として処理していきます。独立行政法人に支払った会費や公共財団法人・NPO法人に支払った賛助会費などが該当します。
寄付金とは、公の目的で活動している団体に対して、対価を求めずして支払われたお金を処理する勘定科目です。そのため、先に挙げたNPO法人など特定の団体に支払った会員費については、寄付金として税制上の優遇を受けることが可能です。
寄付金についても損金算入が認められる場合があります。ただし、法人が公的な特定の団体に支出した寄付金に関する損金算入可能額は、その法人の資本金等の額、所得の金額に応じた一定の限度内に限られます。
支払手数料
例えば企業や法人に対して発行されるクレジットカードである「法人カード」は、支払わなければクレジット取引ができなくなることから、実質的には手数料としての意味合いが強くなります。このような会社が経営や外部取引を行っていくうえで支払っていかねばならない手数料的な支出金については、「支払手数料」として処理できます。
なお、年会費はクレジットカードの会員資格を維持するための費用とも解釈できることから、諸会費として処理しても構いません。ただし、勘定科目の変更は税務署の心証を損なうリスクがあるため、1度使った勘定科目は必ず使い続けることが肝要です。
また、法人カードの年会費は消費税を含むため、課税の対象となります。仕入税額控除の申請を忘れずに行い、消費税の二重支払いを防いでおきましょう。
前払費用
同業団体の会費を数年分まとめて支払うようなケースは珍しくありません。この場合、諸会費として経費に計上できるのは1年分だけで、翌年以降の分は「前払費用」として処理する必要があります。
前払費用は、支出した時点ではまだサービスの提供を受けていないため、将来対価を受け取れる権利として資産に計上します。そして、実際にサービスの提供を受けた年度の申告時に、損金として処理することが可能になる仕組みです。ただし、支払った会員費の対象となるサービスの提供が1年以内であれば、年度をまたいでいても支払時点で全額を損金に算入できます(短期前払費用の特例)。
繰延資産
繰延資産とは、支出した費用の効果が年度をまたいで及ぶ場合に一度資産として計上し、その後数年をかけて定められた方法で償却して費用化できるものを指します。これは支払った年度以降もその効果がもたらされるのであれば、たった1年で一括して処理するのではなく、効果が及ぶ各年にわたって経費計上していくのが妥当であるという趣旨に基づきます。
特に、会社設立当初は十分な売上が確保できていないことが少なくないことから、会社設立費用などの全額を1度に計上してしまうと経営を圧迫しかねません。このような場合に設立に要した費用を繰延資産化できれば、当面の税負担の軽減が可能になるメリットがあります。
例えば、フランチャイズへの加盟金や共同利用施設建造に関わる会費などは、会員費ではあっても実質的にノウハウやサービスの提供を長期にわたり受けるための権利金とみなせることから、繰延資産として計上できます。そして、これらの繰延資産は「長期前払費用」として処理し、原則として5年間で均等に償却していくことになります。ただし、金額が20万円以下の場合には、発生した時点で経費として一括計上することも可能です。
会員費の経理作業上の課題
会員費の仕訳を取り扱う経理業務については、さまざまな問題点が指摘されており、多くの企業において業務の効率化と生産性の向上が喫緊の課題となっています。そこで、ここからは、会員費の経理作業上の課題とその解決策について考えていきます。
まずは、挙げられることの多い2つの課題をみていきましょう。
属人化しやすい
バックオフィス業務である経理は企業活動に欠かせない役割を果たしてはいるものの、会社に直接の利益をもたらす部門ではないことから、多くの企業で人員を最小限に抑えられているのが実情です。そのため、担当者が自ら編み出した独自のやり方で業務を進めていることが珍しくなく、もともと専門性が高いこともあって業務内容のブラックボックス化が起きやすくなっています。
属人化しやすいため担当者に過重な負担がかかる、外部からは問題点を掴みにくく改善が後手に回りがちになる、担当者が代わる度に業務が滞るなど、数々の弊害が生まれるリスクが高くなります。
ミスが許されない
経理はお金を扱う部署のため、たった1つのミスが会社に大きな損害を与える危険性もあります。直接的な金銭的損害を被ったり、税務調査が入った後に加算税や延滞税などのペナルティ税が課されたりするだけでなく、場合によっては取引先の信頼関係を失うことにもなりかねません。
こうしたことから、経理は「ミスが許されない」という心理的重圧が絶えずかかってくる業務と言えます。加えて、関連法規の変更時などにはイレギュラーな対応が必要になる業務も増えるため、ミスを回避するニーズはさらに高まります。
しかし、ミスを防ごうという意識が強くなりすぎるとどうしても作業スピードが落ちてしまい、業務効率の低下を避けることが難しくなりがちです。非効率の放置はコスト増をもたらすだけでなく、担当者の疲労の蓄積がかえってミスを誘発し、不正のリスクを高めることにもなりかねません。
ミスや不正は決算関連データの精度の低さや遅延にも繋がることから、時宜を得た経営判断を的確に下していくことが難しくなり、企業経営の前途に多大な影響をもたらす可能性も出てくるでしょう。
経理作業の課題の解決策
属人化しやすく、また、ミスを恐れる中での業務効率の低下が起きやすいという経理作業の課題は、どうしたら克服できるのでしょうか。ここでは、3つの課題解決策をご紹介していきます。
業務フローの可視化
昨今の経理業務は以前にも増して複雑化が進み、業務量も増加傾向にあります。そのため、作業の効率化を図るうえでは、「業務フローの可視化」が欠かせません。可視化により経理業務の現状や全体像を客観的に把握できれば、部署内での共通認識の確立もスムーズになります。
一般化された業務フローをメンバーで共有できれば、「誰が・いつ・何をやっているのか」について誰もが簡単に知ることができるようになります。属人化を防ぐことはもちろん、業務のどの部分がどのようにして進められているのかが明らかになるため、非効率業務のあぶり出しや改善に向けた施策の打ち出しが行いやすくなる効果も期待できるでしょう。
なお、業務フローの可視化は、まず時系列で経理業務を書き出し、次に行動レベルで経理業務を洗い出し、最後にECRS(イクルス)の法則で各業務を見直していく流れで進めていくと効果的です。
システムの導入
経理業務は、企業の規模が大きくなるほど作業量も増大していくのが一般的です。そこで、経理システムの導入による業務の自動化が、業務効率化に向けた現在最も効果的な対策となります。例えば、会計ソフトや請求書発行システムなどを活用することにより、会計処理や請求業務にかかる時間の大幅な短縮と手作業に伴うヒューマンエラーの低減効果が期待できるでしょう。
また、初心者に対応した会計ソフトの中には、帳簿付けや財務諸表作成をサポートする機能が備わっているものも少なくありません。簿記知識が乏しい社員であっても活用しやすいため、専門性を持った特定の社員への属人化を防ぐ効果も見込めます。
アウトソーシングの活用
社内リソースでの経理業務遂行に限界を感じるのであれば、アウトソーシングの活用も検討の余地があります。伝票や決算の処理から税務申告、報告書の作成まで、経理の業務範囲は多岐にわたります。こうした煩雑になりがちな業務を、専門スキル・ノウハウを有する専門業者や税理士事務所に任せることで大幅に効率化できます。そして、専門家の視点からの数値分析やアドバイスを採り入れることにより、的確な経営判断の実践までが射程に入ってくるでしょう。
アウトソーシングの活用はまた、業務の属人化にまつわるさまざまな弊害を回避できたり、コア業務に専念できたりするなどのメリットをもたらします。コストはかかるものの、活用の仕方次第では十分な費用対効果が期待できる解決策と言えるでしょう。
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会員費の経理作業を正確かつ効率的に進めていくためには、仕訳処理に関する正しい知識と、自社における経理作業上の課題をきちんと把握したうえで適切な対策をスピーディに打ち出していくことが大切です。
属人化しやすく、正確性への拘泥から作業スピードが損なわれ、結果として非効率に陥りがちな経理業務の実態に鑑みると、現在最も有効な対処法の1つがシステムの導入による業務の自動化です。
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