テクノロジー・通信

テックタッチ株式会社

DXツールを味方に経営をサポート。バックオフィスの醍醐味を追求する「ひとり経理」の仕事術

管理部 部長 飯沼貴史

・社名
テックタッチ株式会社
・事業内容
デジタルアダプションプラットフォーム「テックタッチ」の開発・提供
・設立
2018年3月1日
・URL
https://techtouch.jp/
・業界
テクノロジー・通信
・従業員規模
109名(2024年2月時点)※正社員のみ

経理・財務・労務・法務を一手にこなすマルチプレイヤー

——まずは、飯沼さんが担当されている業務の範囲について教えてください。

当社は部というよりは役割で仕事をしているので、明確に部というものがないんです。そのなかで管理部としては、採用担当が2名と私が経理・財務・労務・法務などのバックオフィス業務を担当しています。また、経営企画部1名がおり、管理部と経営企画部の上に管理管掌役員がいて、公認会計士でもある経営企画部の者が経理の一部と承認を行うことで、少人数でも業務を回すことができています。

——管理部門が4人体制で、しかもバックオフィス業務を飯沼さんが一手に担われているというのは、かなりお忙しそうですね。

我々も上場を目指しているところなので人員を増やすタイミングは来ると思いますが、今はこのメンバーで十分にカバーできているので、あえて増やさなくてもいいのかなと。私自身「バックオフィス関連の業務は全部やりたい」という目的があってテックタッチに来たので、決してやらされているというわけではなく(笑)、むしろ嬉しく思っています。

——ふだんはどんな流れで業務をこなされているのでしょうか。

経理・財務としては売上の計上、入金の消込、決算、税務、監査対応まで全般的に。当社はエンタープライズ向けの売上が多いので、お客様によって決済方法が異なることがよくあります。そういう請求業務のカスタマイズのようなところも私が見ています。

労務は主に給与計算、入退社の手続き、法務はNDAや基本契約書のチェックや締結など。総務的な業務では、株主総会や取締役会の運営も行っています。

——これだけ幅広い業務をひとりで回すとなると、効率化のためにいろいろ工夫されているのでは?

特に気をつけているのが「繁忙期に忙しくならないように」ということです。本決算の作業は月次決算に織り込んだり、月次の作業は時間に余裕のある月の中頃に済ませたりと、平準化するように心がけています。

また、法務関連の作業は突発的に発生することが多いため、毎日2時間ほど時間を確保するようにしています。労務は月末や月初に作業が集中するので、メインで力を入れているのはやはり経理業務ですね。

——経理の仕事に就いたきっかけを教えてください。

高校で会計の勉強をしていて、単純に「会計って楽しいな」と思ったんです。「数字で会社全体の状態がすぐわかる」というのが、画期的というか、すごいことだなぁと。当時から漠然と、将来は会計の仕事をしたいと思っていました。

でも新卒で経理として入った会社は業務が細分化されていて、自分には合っていなかった。会社の全体像もわからず「このまま伝票を切るだけの人生か」と感じてしまい、現場の最前線を感じたくて不動産営業に転職したんです。当初は2年限定で勉強のつもりでしたが、営業が合っていたのか気づいたら5年経っていて「営業はやりきったしやっぱり経理に戻ろう」と一念発起して、上場を目指すスタートアップ企業に転職。IPOも経験して、経理の楽しさを再発見しました。

——取締役会の運営なども担当されているということで、経営陣との接点も多そうですね。

そうですね。事務局として取締役会の議案の準備から議事録の作成まで担当しているので、そういった会議には全て参加しています。経営に関わる重要事項は、経営陣が参加するSlackチャンネルで共有されるので、リアルタイムで把握して必要なアクションにつなげることができます。何か問題があればすぐにアラートを出してくれますし、課題を社内で共有しやすいオープンなコミュニケーションは当社の特徴ですね。

バックオフィスの「三種の神器」~テックタッチ 飯沼さんの場合

〜テックタッチ株式会社 利用中のDXサービス〜

契約管理:Scalebase
販売(商談)管理:Salesforce
帳票:マネーフォワード クラウド請求書
会計:マネーフォワード クラウド会計Plus給与:マネーフォワード クラウド給与
稟議・ワークフロー・経費精算:マネーフォワード クラウド経費
勤怠:レコル
労務:マネーフォワード クラウド社会保険・SmartHR
コミュニケーションツール:Slack

——飯沼さんが効率化に役立つと感じているDXツールを3つ教えてください。

まず1つ目は、幅広い分野をカバーしている「マネーフォワード」のサービスです。基本的にツールには、シームレスにデータが連携するサービスであってほしいと望んでいます。いちいちインポートして、エクスポートしてまたインポートするみたいなことは避けたいです。

——請求書発行、会計処理、労務管理、給与計算といったところを全て「マネーフォワード」で連携されています。ここまでツールを1本化されている会社はまだ珍しいという印象です。

確かに、会計と給与計算の連携は必須ではありませんが、給与計算と社会保険の手続きを一つのシステムで管理することはメリットが大きいですね。年末調整もスムーズに進められるようになります。

また「マネーフォワード」で給与計算を行えば、全社員がアカウントを持つことになるので、請求書を作成する際にも、簡単に担当者に権限を付与できます。そういった連携の良さは実感しています。

2つ目は、契約管理のツールである「Scalebase(スケールベース)」です。最初にお話した通り、当社はエンタープライズ向けの売上比率が高く、請求業務が煩雑になりやすいんです。お客様によって決済方法が全然違ったりするので、それを一括管理できる「Scalebase」は便利に使わせてもらっています。

「Scalebase」では契約期間や請求金額を入れて、請求書発行のタイミングが来たら、そのデータをAPIを使って「マネーフォワード クラウド請求書」に連携して、請求書を生成するという流れでやっています。

3つ目は、個別のツールというよりは、あえて「電子証明書の活用」と言いたいですね。今、経理で重要なのは、紙の業務をいかになくすかではないでしょうか。「マネーフォワード」や「SmartHR(スマートエイチアール)」など、電子証明書に対応したサービスのおかげでペーパーレス化が進みました。本当に「紙」がなくなるだけで、経理も在宅が可能になるというか、それがないと本当に無理ですよね。

このコロナ禍で、経理の仕事はいやおうなしに効率化されたのではないかと思っています。コロナ前は在宅勤務なんて考えられませんでしたが、いざ始めてみると、これまでいかに紙の書類に縛られていたかを痛感させられました。

業務の“繋がり”を意識し、今できることをすぐにやる

——今後、経理担当者としてどのような理想の姿を目指していますか?

経理の仕事で何より大切なのは、事実を正確に反映することだと思っています。その一方で上場企業になると、監査という決められた会計基準に沿った処理が求められます。経営陣の「こうしたい」という理想と食い違う部分が出てくることもありますが、そこを粘り強く説明して理解を得ることが重要ですね。

ただ私は、経理は「それはダメです」と言うだけの存在ではなく、経営層をサポートする存在であるべきだと考えています。経営層の新しい取り組みをロジカルに成り立たせるレールを敷いて、「はい!どうぞ行ってください」と後押しできるような経理でありたいのです。

もちろん、経理のプロとして経理以外の新しい知識を吸収し続けることも大切です。私も「ChatGPT」に教えてもらいながら(笑)、「Google Apps Script」でメール送信を自動化してみたり、いろいろ試しています。

とはいえ現実的な目標は、「監査で指摘を受けないこと」かもしれません(笑)。当社は単一の事業に注力しているので、監査で何か言われるようなことはあまりないんですが、日々の業務の積み重ねが何より大事だと感じています。

——飯沼さんのように「ひとり経理」の重責を担われている方に向けて、バックオフィス業務を効率化するアドバイスをいただけますか。

経理の仕事をしていると、必然的に関連領域の知識も身につくものです。給与計算なども経理の延長線上で理解できますし、会計監査の観点で契約書のチェックも日常的に行うので、法務の知識も身につきます。だからこそ、それらを点ではなく線で捉えるというか、「バックオフィスの業務は何かしら繋がっている」という意識を持つことが大切だと感じています。

例えば、経理の処理が労務で問題になって修正が入ると、また経理にも影響が出てきます。そのときに対応すれば5分で済むことが、後でやると忘れたりしてミスになって最終的に1時間かかったりする。そのため「今できることをすぐにやる」という姿勢は、すごく大事にしていますね。

ひとりで全てを完璧に理解しようと焦らなくてもいい。それよりも業務を進めるなかで、「ここが重要なポイントになりそうだな」という勘所をつかむ感覚を磨くこと。そうすれば、あとは顧問税理士など専門家に相談すれば、すぐに答えが得られるはずです。

業務の影響関係に気づくというか、ポイントや論点を押さえる力を身につけることが、長い目で見ると業務効率化につながるのではないでしょうか。

ライター:田邉愛理、取材・編集:藤田かおり