DX本格化を前にした経理業務と企業の課題とは?具体的な改善案もご紹介!
2024年9月1日
DXとは、手短に言えばデジタル化による事業変革と言えますが、それは全社的な取り組みを要するものであり、バックオフィス各部門にとっても無関係ではありません。
しかし、日本企業はDX実現に向けて多くの課題を抱えています。経済産業省が公表したDXレポートが指摘する問題を克服した企業が一定数存在する一方で、アナログな業務体制下でDX実現の環境醸成すら叶わない企業も多数存在するのが現状です。そこで、この記事ではバックオフィス業務の中でも経理業務に焦点をあて、課題と取り組むべき事柄を解説します。
目次
経理作業には何がある?
企業経営における経理業務の役割を端的に言い表すと、会社のお金の流れを記録・管理する業務です。日次・月次・年次などの一定のサイクルで業務は動いていて、日次では現預金の管理が主になります。納品書や請求書に基づき、現預金の入出金を行うと共に出納を仕訳して帳簿に記録していきます。
月次では請求書の発行・売掛金の管理や、会社によっては給与計算も担当する場合があります。損益計算書を作成して経理状況を資料にまとめるのもこのタイミングです。年次では、年間の決算や決算の結果に基づいた税務申告があります。
これだけで見れば利益や売り上げを生まない、典型的なバックオフィス業務に見えるかもしれません。しかし、記録・管理を通じて会社の金銭の動きを俯瞰的・客観的に見るという点で、経理は企業経営の改善に役立つ提言を行うという高い付加価値を生み出す業務なのです。
経理作業はなぜ効率化すべきなの?
経理作業を効率化すると言っても、根本的な問題としてなぜ効率化すべきかを明確にしなければなりません。以下に効率化すべき理由を解説します。
担当者の負担が大きい
経理は業務の性格上ミスが許されず、経理担当者には常に重圧がかかっています。そのため、慎重に作業を進めなければならないことから、効率や速度は低下しがちです。
また、昨今の日本国内の兆候として、少子化が進んで人材の確保が難しくなっていることも見逃すことはできません。人材不足が常態化すると特定の担当者の負担が大きくなるだけでなく、担当者が欠勤したり異動したりすると、業務に不慣れなスタッフが業務を担うことによるミスの発生が考えられます。
一方、期日や大量のルーティン的な定型作業に追われる業務という側面もあって、質と量の両立が必要であることから、効率化への要求は大きいものです。その点パターン化された作業の繰り返しはデジタル技術に親和性が高く、デジタル化によって大きな効果が見込まれます。
従来は担当者が手作業で行っていた経理業務を、ITやAIを活用して自動化・省力化する試みは近年大きな広がりを見せており、特に請求業務についてはデジタル化が浸透しつつあります。
DX化にも関わる課題
近年日本企業とデジタル技術の関係において、DXすなわち「デジタル技術を活用して業務や組織のあり方の抜本的な変革と、競争力向上やビジネス環境の変化への対応」が注目を浴びています。
ただし、デジタル化と一口に言っても、デジタイゼーションとデジタライゼーションという2つの概念があります。前者は、単に既存のビジネスプロセスを単純にデジタル化・自動化で置き換えることでしかなく、DXにとっては前提条件となるものでしかありません。
DXで求められるのは、後者の概念が意味する事業やビジネスモデルの変革であり、それによる新たな事業価値や顧客体験といった価値の創造です。
DXによる事業変革は全社的な取り組みを要するものであり、経理業務も無縁ではいられません。DX化が必要とされるのは、変化の激しいビジネス環境に対応し、企業競争力を向上させられる事業変革を実現するためです。そうした環境下では、最新の経営状況を随時把握しながら経営判断を下していくことが必要です。
経理業務の単なる自動化を越えて、そのようなデータを活かしICT(情報通信技術)で利益を生む経営の一翼を担うことへの期待が、経理業務のDX化にはかけられているのです。
経理作業をDX化によって効率化するための準備
経理作業をDX化によって効率化するにあたって、準備段階ではどのようなことが必要になるのかについて以下に解説します。
業務フローの整理
DXを見据えた経理業務効率化の前提となるのは、他部署との連携までを視野に入れて業務を整理し、業務フローを可視化して課題を洗い出すことです。どの業務にどれだけの人が関係し、どれほどの工数がかかっているかを洗い出すとともに、デジタル化によって効率化・コスト削減が可能な箇所はどこにあるのかを明らかにします。
同時に、業務の詳細手順、使用するツールやドキュメントも業務フローとして可視的にまとめます。
こうして業務フローを作成し、それを議論の土台としてデジタル化する業務の取捨選択や再構成を考えることがDX化の第一歩です。なお、効率化が見込めない業務についてまで無理にデジタル化する必要はありません。
関係先への周知徹底
DX化を実現するには、関係する他部門・取引先とのやり取りの合理化が欠かせません。そして、経理業務は請求書の発行や経費の支払いなどミスや停滞が許されないため、関係各所との密なコミュニケーションが不可欠です。そのため、関係先への周知徹底と協力を仰ぎつつ、長期的な観点でやり取りするデータの電子化を進めます。
単に紙をなくすという形式よりも、紙媒体でやり取りされていたデータを電子化し効率化するという観点で進めるのがよいでしょう。DX化を進める目的とメリットを説明していったほうが、理解と協力は得られやすくなります。
属人化の防止
経理業務のDX化を進めるための準備として業務フローを可視化して整理することで、ある程度までは属人化が防げることでしょう。しかし、経理業務には高い専門性が要求され、業務内容も難解であることから属人化を招きがちであるという問題は、以前から経理業務特有のものとして指摘されてきました。
DX化においては、属人的な業務体制は非効率性や業務の停滞を招くものとして積極的に解消していきましょう。たとえDX化によって業務の効率化が達成できたとしても、再び属人化してしまうようでは意味がありません。
業務フローの整理と可視化を進める中で、属人的な暗黙知に依存しなくてよいように、改めて業務の形式知化を進めて、ノウハウや手順として共有し、業務改革が後退しないよう配慮します。
DX化を進めるからには、属人化を防ぐために業務をマニュアル化して整備することも検討するといいでしょう。マニュアル化されていれば担当者が欠勤したり異動したりしても業務が滞るのを防ぐことができます。
どのように経理業務を効率化するか?
経理業務は、DX化へのボトルネックとなっている紙文化、押印決裁、システムのブラックボックス化の3つに取り組まなければなりません。ここでは、経理業務の効率化の進め方を、より具体的なレベルで解説します。
証憑書類を電子化(ペーパレス化)
まず取り組むべきなのは、経理業務にまつわる大量の紙の書類、特に請求書、納品書、領収書、伝票などの証憑書類を電子化することです。PC上で作成した書類はデジタルデータのまま保管し、紙に印刷・記入された書類はスキャンしてPDF化します。領収書やレシートも電子化すれば経費精算は効率化するでしょう。
しかし、ただ紙を無くすだけでは不十分です。最終的には紙でやり取りされていたデータを電子データでやり取りし、データ同士をつないで処理が進められるようになる状態を目標にしましょう。
可能ならばEDI(電子データ交換)取引化により自動処理化・デジタル化を図るのがおすすめです。大量の書類の保管・管理・処分に要していたコストの大幅な削減を達成できるだけでなく、電子化による検索性の向上も目指せるでしょう。
EDI化に向けた請求書の標準化については、2023年10月開始の適格請求書等保存方式(インボイス制度)を見据えて、デジタル請求書の標準仕様を策定する動きが始まっています。また、2022年1月施行の法改正では、今までより証憑書類の電子保存に対する規制が大幅に緩和されるなど、制度面でも後押しされています。
電子署名(電子印鑑)の導入
日本企業の紙と印鑑での決裁という文化は、コロナ禍による緊急事態宣言下でも経理担当者の約7割が出社を継続した理由として挙げられました。この日本独特の文化は、電子化・ペーパレス化にとっての障害となるだけでなく、働き方改革にとっても大きな障害となることが明らかとなっています。
社内決裁やワークフローを電子化したと言っても、実態としてはPDFを紙に印刷して捺印し、またPDF化するような運用が続いているのもよく見られることです。しかしながら、こうした旧弊が改まらないようでは、電子化・ペーパレス化の実は挙がりません。
そこで、書類やワークフローの電子化とともに、電子署名や電子印鑑を導入することが有効な対策となるでしょう。第三者機関の電子認証局が発行した電子証明書付きの電子印鑑や電子署名であれば、安全性や信頼性を担保しつつ、電子契約や決裁を行うことが可能です。
また、電子印鑑や電子署名であれば、どこにいても承認をすることができます。結果として、捺印のためだけに出社するなどという必要もなくなります。
システム連携の推進
日本企業におけるシステム構築の特徴として、部門ごとの場当たり的な必要性と、短期的な視点だけで部分最適化された縦割りが指摘されてきました。しかし、企業では多部門間のデータ連携が必要な場面が経理業務に限らず多数あります。システム同士の連携やデータ共有により、全社的な部門間のシステム連携やデータ共有が進めば、入力ミスやムダな作業重複を減らすことができます。
また、全社的な全体最適化が意識される糸口にもなるでしょう。そうした全社的な部門間を横断したデータの活用が進むことで、会社の経営状況や事業の収益状況を把握する管理会計データの収集と集計が改善されていきます。
経営層は、状況判断や経営判断の基礎となるべき情報をよりリアルタイムかつ最新状態で容易に手に入れられるようになり、迅速かつ的確な判断の基礎となるでしょう。
データをもとにした経営層への提言をできるようになることは、経理の本来の役割であるだけではありません。経理でなければできない価値創造であり、高い付加価値を生む業務と言えるでしょう。
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