経理のDX化が求められている?導入するメリットや効果的な運用方法とは
2024年9月1日
21世紀に入り、かつて人類が経験したことのないレベルと規模で社会変化が進んでいます。そして、昨今のこうした変化において重要な要素として考えられるのがデジタルテクノロジーの進歩です。パソコンの普及や社会インフラとしてのインターネットの浸透はその一例と言えるでしょう。
ビジネスの分野も例外ではなく、この分野におけるデジタル化は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれ、組織やビジネスモデルの変革の鍵となっています。この記事ではDXの概要から、特に経理業務のDX化についてスポットを当てて解説します。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
まずはじめに、DXの概要をおさらいしておきましょう。
定義
DXには広義と狭義の定義があります。まず広義の定義では、「デジタル技術が浸透することによって、人々の生活があらゆる面において良い変化や影響がもたらされること」というものです。すなわち広義のDXは「ITによる社会全体の変革」を意味します。幅広い概念であることから、使用する人・場所・状況に応じて正しく捉えて共通認識を持つ必要があります。
一方、狭義の定義は「ビジネスの場面においてデジタル技術を活用して変化の激しいビジネス環境に対応し、事業方針や事業、ビジネスモデルに変革をもたらし、競争優位性の確立を成し遂げるもの」を指します。経済産業省によるDXの定義は後者に近く、一般的にDXと言うとこちらの意味で使われるケースが中心です。
混同されやすい用語
DXと混同されやすい用語として、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」という2つの単語があります。まずデジタイゼーションとは、アナログな作業をデジタル化することを指し、例えば新聞のようなアナログ広告を止めてデジタル広告を用いたり、紙の書類をデータ化して検索性を高めたりすることです。
対してデジタライゼーションとは、デジタル技術を活用することにより既存のビジネスモデルを変革し、新たな顧客体験や事業価値を創造・提供するものです。例えば定型的な事務作業をソフトウェア型ロボットに代行させたり、タブレット端末を活用して顧客へプレゼンテーションや商品説明をしたりするといったことが挙げられます。
どちらも大枠では「デジタル化の推進」が目的ではあるものの、DXのほうがより根本的な内部改革を目指し、生産性能向上を図る意味が込められていることが分かります。
DXが重要視される理由
DXが重要視される理由は、このままIT人材が不足した状態でシステムの老朽化が進むと、2025年から年間で最大12兆円の経済損失が生じるとされているためです。この課題は通称「2025年の崖」と呼ばれており、DXの推進がリスク回避の手段として注目されています。
他にも、ITの進歩による消費行動の変化に対応する必要が出てきたことや、既存ビジネスモデルの破壊と新たな創造が起きていることなどが注目される理由として挙げられます。デジタル化の荒波を乗り越えるために、DXによる環境の変化への対応と企業競争力の向上が各企業に求められているのです。
経理におけるDXの流れ
経理業務は、定期的に発生し煩雑な処理が必要なことから、DX化による効果が大きいと言われています。では、経理業務におけるDX化への推進には、具体的にどのような変化が見られるのでしょうか。
取り扱う書類のペーパーレス化
まずは、紙ベースでやり取りされている請求書・納品書・領収書・伝票などの証憑書類を電子化(ペーパーレス化)することが経理部門におけるDXの最初のステップです。
パソコンで作成した書類はそのままデジタルデータとして保管し、紙に印刷・記入されている書類はスキャンしてPDFデータ化します。例えば、領収書やレシートを電子化することで、経費精算の効率化ができます。最終的には社外の取引先も巻き込んで紙媒体でのやり取りをなくし、デジタル化による効率化を目指すことが経理部門におけるDXの第一目標になるでしょう。
印鑑の電子化
日本CFO協会と日本CHROが2020年に行った調査によると、コロナ禍の緊急事態宣言下でも出社した理由として最も多かったのが、決裁書類や請求書、契約書といった紙の書類の確認や押印作業のためでした。押印作業がテレワークの推進を阻んでいる実態が浮き彫りになっていますが、これを打破できれば経理部門でDXが大きく進む契機となるでしょう。
ちなみに、PDFファイル形式などの電子データ化された書類で押印をするには、印鑑の電子化が必要です。電子印鑑は、第三者機関の電子認証局(認証局)が発行した電子証明書により、安全性や信頼性が担保されるという仕組みです。
各システムの連携
日本企業のシステム構築に関する一般的な傾向として、一括した大きな汎用システムを導入するのではなく、システム最適化のために各業務に個別のシステムを用いるビジネスモデルが一般的です。裏を返すと、業務を横断した連携が難しく、せっかくシステム化をしても連携がうまく取れなくなる可能性もあるのです。
クラウド環境を活用するなどしてこれらのシステムを連携させることができれば、DX化の恩恵として無駄な開発コストをかけることなく、個々のシステムの最適化と事業の効率化が目指せます。初期設定の手間やコストはかかりますが、一度済ませてしまえばその後の作業の多くが自動化されます。人的な単純ミスが減らせるなど、長期的な視点ではメリットは大きいと言えるでしょう。取り掛かるのが早ければ早いほど手間の削減になるため、DX化の際には優先的に進めたい項目です。
経理業務をDX化するメリット
経理業務をDX化することで、以下のようなさまざまなメリットが挙げられます。
コストの削減
従来の手作業による経理業務は、毎月定期的に発生するうえにその内容が煩雑であるため、属人化が懸念されるケースもありました。こうした業務状況の場合、定型業務の自動化によって業務効率のアップが見込めるため、結果的に人的コストの削減が可能になります。
また、それだけではなくペーパーレス化を進めれば紙の書類が不要となり、印刷代、用紙代、プリンターのレンタル費・メンテナンス費、電気代といった書類作成にまつわるコストを大幅に削減できます。さらに、書類を電子的に保存できることから、紙の書類整理やファイリングをするための人員や保管場所の確保も不要にできるでしょう。
DXによるコスト削減は、従来の考えのようにコスト削減や効率化を優先するあまり社員や顧客の満足度を置き去りにすることなく、満足度を維持したまま利益率を向上させることが重要です。
環境への配慮
ペーパーレス化の影響は、コスト削減だけではなく自然環境への配慮にも波及します。近年はSDGs、いわゆる「持続可能な開発目標」として気候変動や環境問題に対して企業単位で取り組む事例も多く見られ、その一環としてペーパーレス化を推進する企業も増えつつあります。
書類に使用される紙や消耗品の削減のみならず、印刷、封入と郵送、書類の廃棄などで発生する二酸化炭素の排出量の削減にも期待できるでしょう。
こうした活動を積極的に行うことで、企業として環境保護の姿勢を社会にアピールできることになり、ISO 14001のような環境マネジメントシステムに関する国際規格を取得するのにも役立つでしょう。
業務効率の向上
経理部門は、毎月末など決まった周期ごとに同じ作業を繰り返す定型業務が多い部門です。しかも作成する書類は確実に期日までに間に合わせられるように、かつミスなく仕上げなければなりません。
このような定型業務はDXによる自動化と相性がよく、部門を横断するような業務であっても各システムを連携させることにより業務の自動化が可能です。また、集計作業や帳簿作成業務が自動化できれば、担当者はより専門的な知識を必要とするコア業務に専念できます。
リアルタイムな経営状況の可視化
DX化を経て収集したデータは、リアルタイムに集計した内容を分析・集計することで、定量的な情報として経営状況や業務プロセスの改善点などを可視化できます。ただ情報を蓄積するだけではなく、規則性や特性などのデータを把握することによって、企業としての経営指標の決定やマーケティング戦略の勘案などの判断材料のもとになります。
また、自社内の従業員であっても、例えば役員と現場責任者とでは目標とする指標にズレが生じることも少なくありません。そのため、できる限りそのギャップを埋めるためにも、経営状況をタイムリーに把握できる状況を保持できることが求められるのです。
DX化にあたっての課題
メリットも大きい反面、DX推進にあたっては解決しておくべき課題がいくつかあります。以下で主要な課題を2つ解説します。
一貫性のあるシステムの構築
日本企業のDX推進にとって障壁となっている要因として挙げられるのは、システムが老朽化して一貫性がない点です。長年根幹のシステムは変わらない運用方法の過程で少しずつ付け加えられる形で複雑化することが多いなど、システム構築時の社員が退職していて改修が難しくなっているパターンがあります。古いシステムでは開発や改修が短期的な視点で繰り返されているのが常であり、保守費用の高騰とシステムのブラックボックス化を招いているのも珍しくありません。
このような技術的負債を払拭するためには、通常のIT予算とは別の予算を組んでDXを進める必要があります。つまり、一部門の限定された業務だけをシステム化すれば良いというわけではなく、部門ごとに連携ができる大規模なシステム導入を検討する余地が必要なケースも少なくありません。
IT人材の確保と育成
日本企業の現場ではDXを推進できるIT人材が経営レベルでも現場レベルでも不足しているため、一貫したDX推進を推進するうえで障壁となっているのが実情です。DXを推進するためには、エンジニアだけでなくビジネスデザインができる人材も必要となります。しかしながら、日本ではこのような人材をITベンダー企業に依存する傾向が強く、さまざまな業種・業界で慢性的なIT人材不足が起きています。DXの潮流が強まる今後においては、IT人材の獲得競争が激化するのは必至でしょう。
企業としてDXを推進しようとするならば、将来のあるべき姿を明確に描き、DXを推進できる人材の採用・育成を全社的な活動として進めていく必要があります。
また、2023年から24年にかけては「インボイス制度」や「電子帳簿保存法改正」などによる新たな制度に対する対応が求められます。このように、定期的なアップデート・更新への知識やノウハウが必要不可欠となる点も注意しておきたいポイントの一つです。
効率的なDX化運用のポイント
DX化における現状の課題を踏まえて、今後効率的に企業が運用を推し進めるにはどのような観点がポイントになるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
自社に合うシステムの検討
ひとくちに「システムを導入して自動化」といっても、どの業務をどの範囲まで自動化すべきなのかは企業ごとに異なります。まずはDX化を推進するための目標を明確に設定し、どのシステムが自社にとって有用なのかを吟味するところから始めましょう。
例えば、「テレワークでできる業務が限られている」「他部署への情報共有がうまくいっていない」など、現状におけるワークフローの課題を洗い出し、見直しが必要な箇所から抜本的な改革を進めるといった方法が有効です。
自社内の情報共有を徹底
ここで言う情報共有とは、DX化に伴うシステムの運用方法や業務フローの確認という意味だけではなく、DX化を実施する理由と意識を全社的に統一させるという意味を持ちます。
属人化を防ぐためにシステムの運用方法を全社員に周知するというのはもちろんですが、それだけではなく「なぜシステムを導入するのか」「業務改革によって企業が何を目指しているのか」という根幹にある思いやビジョンを全社員と共有することも非常に重要です。
特にDX化は組織単位での企業改革になる事例が多いため、各社員はマニュアルや業務フローを覚え直す必要が出てきます。これに対し、ただDX化に取り組む事実だけを周知させても不満や懐疑的になる意見が出てもおかしくはありません。
DX化への理解を促すために、企業目標やビジョンをまず全社的に浸透させることで、組織変革への信頼度が向上するでしょう。
セキュリティ対策への備え
DX化の推進によって、クラウドサービスの活用やデジタルデータの利用・管理が業務に加わることになります。こうした新たな技術やノウハウを取り入れる際に注意したいのは、抜け目ないセキュリティ対策と、各社員に向けたセキュリティ意識の啓もうです。
例えば、クラウドサービスの導入によって働き方の柔軟性が向上し、オフィス勤務だけにとらわれないビジネススタイルを教授できるのは大きなメリットと言えます。しかし、働く環境がそれぞれ異なるということは、それだけセキュリティ対策の構築が複雑化することは間違いないでしょう。
実際に、過去にはテレワーク中のデバイスを狙ったサイバー攻撃や、セキュリティ対策への意識の共有がなされていなかったことが原因での情報漏えいなどのトラブルが発生しています。
企業がセキュリティリスクの対策を講じることはもちろんですが、「ついうっかり」「この程度なら大丈夫」という慢心によるセキュリティリスクを引き起こさないためにも、ガイドラインなどを通じて社員のセキュリティ意識を高めることも重要です。
ステークホルダーへの対応
DXの推進による企業変革は、社内のみならず社外のステークホルダーに対する影響や対応も同時に考慮しなければいけません。例えば、「電子帳簿保存法」の改正によって電子データによる取引関係書類の取引では必ず電子保存でなければならないという規則が適用されるようになりますが、この場合取引先が電子保存に対応していなければ対応が難しくなります。
このように、DXは社内で完結する枠組みだけでなく、取引先や顧客、サプライヤーなどステークホルダーへ向けた改革も同時に実施する必要があるでしょう。
属人化の防止
せっかく業務効率の向上を目指してシステムを導入したとしても、そのシステム運用に対して専門的なノウハウが必要になりすぎてしまうと、属人化に拍車がかかります。
ユーザビリティの高いシステムを構築したり、マニュアルの整備を徹底したりと、例外のフローが発生しないようになるべくアクションを標準化させる工夫が必要です。
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経理業務のDX推進は、日本企業ではまだあまり進んでいないのが現状です。しかし、働き方改革でテレワークが推進されているように、経理のDX化は急務となっています。とはいっても、何から手を付けたら良いか分からないとお困りの方は、ROBOT PAYMENTの「請求管理ロボ」をぜひご検討ください。
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