「使途不明金」とは?処理する際の注意点や発生を防ぐコツを解説

経理

企業に収入や支出があると、金額・支出先・使途を記録するのが基本です。しかし、中には何のための支出だったのか不明な金銭が発覚するケースも珍しくありません。これを「使途不明金」といいますが、通常の支出とは税務上の取り扱いが異なるため注意が必要です。

本記事では、使途不明金がどのようなお金なのか、対応を含め処理上の注意点まで解説します。

使途不明金はどういうお金?

使途不明金といってもそれはどのようなお金なのでしょうか。使途不明金には、似た言葉に「使途秘匿金」というものもあります。使途不明金の発生しやすい状況や発覚しやすいタイミング、使途秘匿金との違いなどについて詳しく見ていきましょう。

使途不明金とは

「使途不明金」とは、支出額や支払先がわかっているが、支出目的が不明な金銭を言います。

具体的には接待交際費、機密費等で金銭による支出をともなうものであり、支出内容が不明なものです。そうした支出は、会社として負担すべきものかどうか、会社の事業と関係があるかどうかも含めて不明なため、税務上は損金として認められません。

また、使途不明金に似たものとして「使途秘匿金」があります。企業の支出の記録は、金額、支出先、使途の3点を記録します。しかし、使途秘匿金は3点とも不明な金銭です。支出先等の記録が一切残らず、違法性が高いことから、税務上ではやはり損金算入が認められません。また、支出した金額に対して別途40%の法人税の負担が生じ、課税所得が赤字の会社であっても納める必要があります。

使途秘匿金との違い

使途不明金と使途秘匿金の相違点は、違法性の程度にあります。使途不明金は金額と支払先が分かっていますが、使途が不明です。しかし、使途秘匿金で分かるのは金額だけで、使途も支払先も隠されています。

使途秘匿金の方が支出内容の透明性が低く、所得隠しなどのために故意に内容を隠していたり、脱税であったりする可能性が高く、違法性が高いと言えます。そのため、使途秘匿金は経費に計上が認められないだけではありません。課税所得に合算されて通常の税率で法人税が課されるだけでなく、支出額の40%相当が追徴課税されます。追徴課税は、課税所得が赤字の事業年度で法人税の納税額がない場合でも納税しなければなりません。

使途秘匿金に対し特に厳しく追徴課税される背景には、1990年代のゼネコン汚職事件などがあります。使途秘匿金として課税所得を隠して脱税するだけでなく、闇献金や反社会的勢力の利益につながる可能性が懸念されたのです。

使途不明金が発生しやすいのはどんな時?

使途不明金は、取引先などの関係で領収書が発行できない場合、領収書の紛失、記録漏れなどにより支出目的が不明の際に発生しやすいといえます。

使途不明金が発覚するタイミング

使途不明金や使途秘匿金は、基本的に税務調査の際に発覚することがほとんどです。税務調査では、支出先の名称や住所、使途などが適正に帳簿に記載されているかどうかという観点で調査が行われます。ときには反面調査といって、支出先とされる企業を調査し、内容に虚偽がないかどうかを裏付ける調査が実施されることもあります。

会社の資本金によって使途不明金には上限がある

使途不明金が出やすい支出科目は交際費・接待費ですが、費用として認められる金額は企業の資本金額によって上限が異なります。資本金1億円以下の法人では、交際費として計上した額から800万円までか、飲食費の50%のどちらか金額の高い方を上限に損金算入することが可能です。損金算入された金額は所得から控除でき、この場合所得が減るので法人税が減額されます。

ただし、そのためには飲食がいつ・誰と・どこで・何のためにあるのかが明確であり、1人あたり飲食費5000円以下であることが条件です。ちなみに、資本金1億円を超える法人では、飲食費の50%を損金算入できます。飲食がいつ・誰と・どこで・何のためにあるのか明確でなければなりません。また、1人あたり飲食費5000円を超えたときは、その飲食費の50%までを損金算入できます。

ケース別の使途不明金:交際費

使途不明金が生まれやすいもうひとつの支出科目が交際費です。交際費が使途不明金になるケースや、交際費としてカウントしないケースについて解説します。

交際費とは

交際費とは、法人が事業に関係する法人が事業に関係している取引先に対する接待・供応・慰安・贈答などのために、支出する費用を仕訳する費用勘定です。企業によっては交際接待費、もしくは接待交際費と呼ぶこともあります。

交際費が使途不明金になるケース

交際費が使途不明金になる状況は、例えば接待に使用した店の領収書のみが残っており、誰に何の目的で接待をしたのか分からない場合となります。つまり、費用の使途が分からない状態です。税務調査の際に指摘を受けて、誰に対してどの様な目的での支出だったかを説明できなければ、使途不明金として扱われます。

交際費として処理する必要のないケース

社外の事業関係者との交際費は、1人あたり1回5000円以下であれば、会議費として計上した方が税法上有利といえます。交際費の損金算入は例外であるのに対し、会議費であれば損金算入は原則として可能だからです。

ただし金額だけでなく、会議としての実態があることが必要であり、その会議のために臨時にレンタルスペースや設備などを借りた場合はその費用を含みます。会議で弁当や茶菓などを出した費用も含めることができますが、社会通念上高額過ぎる場合は、交際費として扱うべきとされる可能性もあることに注意しましょう。

ケース別の使途不明金:雑費

交際費の他にもうひとつ、使途不明金が生じやすい費用勘定が雑費です。雑費についての詳細や、リスクについて解説します。

雑費とは

雑費は事業に関連した支出ではあるものの、ほかの勘定科目にも当てはまらないものや、一時的で金額的にも少額で重要性が高くはないために、勘定科目を作成するほどの必要のないものをまとめて処理する勘定科目です。具体的な例としては、消耗品や清掃代、行政の証明書発行手数料などの幅広い費用が含まれます。

雑費の額が大きいとリスクになる

雑費は使いやすい勘定科目です。しかし、雑費は勘定科目名だけでは支出内容が不明であることから、税務調査で疑われやすく、指摘された場合に使途を明確にできなければ使途不明金とされるリスクがあります。そのため、雑費の金額が大きいことは好ましいことではありません。一事業年度内で同じ経費が相当回数発生したり、金額が大きかったりする場合は、独立した勘定科目を設けて処理した方が良いでしょう。

使途不明金を処理する際の注意点

使途不明金は税法上の名称で、会計上の勘定科目ではないため、帳簿上は交際費・雑費・雑損失として計上します。しかし、雑損失は営業外費用のほかの勘定科目にも当てはまらず、営業外の独立した科目とするほどには金額的に重要でないものを処理する費用勘定です。

計上する金額が多額になると、税務調査で疑念を招くなどのリスク要因になります。交際費・接待費に算入仕様としても、算入するには使途・目的などが帳簿に記録されていなければなりませんし、金額にも上限があります。

「損金不算入」になる

使途不明金・使途秘匿金とも、その全額が損金不算入となり課税されます。つまり、使途不明金・使途秘匿金に認定される金額が増えるほど税額も増加するのです。費用として否認された場合には、所得に算入されて課税所得が増えるため、過少申告加算税と延滞税が追徴課税されます。

悪質であると判断された場合は、さらに重加算税が課されることもあるため注意しましょう。

条件によっては使途不明金になる場合がある

使途不明金とされるには一定の判断条件があります。税務調査の際に指摘を受けて、支出先や使途が説明できなければ使途不明金になります。

故意でなくても使途不明金になる場合がある

使途不明金は、使途が分かっていても支払先や目的が分からない支出です。会社が負担すべきものなのか、事業の成長などに繋がる費用なのかが判断できないため経費になりません。

意図的に支払先その他を隠したのでなくとも、領収書の紛失やたまたま記録を残さなかったといった、故意ではないミスの場合でも使途不明金の条件に合致する限り、その扱いを受けてしまいます。

使途不明金を発生させないためのコツ

上述した使途不明金の発生に対応し、使途不明金を発生させないためのコツを記載します。

(1)取引先等の関係で領収書が発行できない場合

取引先などの関係で領収書が発行できない場合は、取引先関係を維持するために仕方ないところもありますが、取引を隠ぺいし決算操作をしようとする会社とはなるべく取引をしないことが必要です。

(2)領収書の紛失

領収書の紛失は、発生日付順、仕訳順で仕訳などに関連させて書類を整理し、厳重に管理すれば防ぐことができます。

(3)記録漏れ

仕訳を記帳する際に、特殊な取引や取引先等の取引は、支出目的を摘要欄に記載することを心がけましょう。

使途秘匿金であると判断される基準

使途不明金とは異なり、使途秘匿金であると判断される基準はどこにあるのでしょうか。

金銭の支出である

使途秘匿金は法人による金銭の支出であり、この金銭の支出であるかどうかが1つ目のポイントです。税法上は、金銭以外の資産(不動産・仮払金・貸付金など)の贈与や供与も、金銭の支出として扱われます。

帳簿に支払先の情報が記載されている

2つ目は支払先の情報が記載されているかどうかです。支出先の氏名・名称や住所・所在地などの情報が記載されていなければ、適正な支出であるかどうか判断できません。内容を裏付けるため、反面調査が行われることもあります。

記載のない相当の理由がある

この「相当の理由」については、例えばチップといった小口の謝礼金や手帳、カレンダーなどの広告宣伝費などです。相手先の氏名などの情報を帳簿に記載しないことが慣例となっている場合が挙げられます。

対価性がある

使途秘匿金とされる基準の4つ目は、対価性があるかどうかです。取引の対価として支出されたことが明らかなものは、使途秘匿金にはなりません。通常、商品の仕入等の対価性が明確な支出は、違法・不当な支出には繋がらないと見なされます。

使途不明金や使途秘匿金はデメリットが大きい

使途不明金や使途秘匿金が出ることは、企業にとって損失となります。使途不明金・使途秘匿金ともに損金不算入となり、また課税対象となるため、納税額が増加するのです。きちんと経理処理して使途不明金・使途秘匿金を減らせば、無用な追徴課税に応じる必要がなくなります。使途秘匿金には金額の40%の法人税の追徴課税がありますが、これは課税所得が赤字でも納税しなければなりません。

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監修
【監修】藤田 豪人 株式会社ROBOT PAYMENT 執行役員

2019年当社に入社、執行役員に就任。
当社に入社以前は株式会社カオナビにてコーポレート本部長、複数の情報IT企業にてCMOなどを歴任。
現在は、当社のフィナンシャルクラウド事業及びマーケティング全般を統括。
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